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健二さん?

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 日曜日。

 今日私は、市内では少し高級感のある、とあるホテルのロビーで、十一時に健二けんじさんとお会いすることになっている。

 このホテル、最上階に円盤のような物が乗っかっているのが特徴的で、私はそこが何なのかよく分からなくて、前を通るたびにいつも気になっていた。

(今日、お時間があったら探索に上がってみられるかしら)

 腕時計に視線を落とすと、お約束の時間まであと二十分もあって。

(早く着きすぎてしまったでしょうか……)

 ロビーに置かれたフカフカのソファに腰掛けて、行きう人々を見回しながら、私は緊張で押しつぶされそうだった。

修太郎しゅうたろうさん……)

 待ち合わせのお相手が修太郎さんだったなら、どんなにいいだろう。

 ふとそんなことを思ってしまって、私はフルフルと首を振った。今から許婚いいなずけのかたにお会いしようというのに、別の男性のことを考えるなんて良くない。例えそれが、自分を解放して欲しいというお願いに上がるためだとしても。

 修太郎さんには、日曜に健二さんとお会いするようになった旨はお伝えした。でも、あえて場所や時間などはお教えしなかった。
 もしもそれらをお話してしまったら、私は心の片隅で、修太郎さんが会合の場に来てくださるのではないかと期待してしまうと思ったから。

 自分でちゃんと解決しないといけない問題に、修太郎さんを巻き込んではいけない。

 ここへ来る前、私はとても迷って、淡い無地のコーラルピンクの長袖ワンピースをクローゼットから取り出した。シフォン素材で、丈は膝下までの清楚な雰囲気のもの。

 パンプスはシャンパンゴールドのプレーンタイプが合うかな? ヒールは五センチくらい有るから、歩き回るのには向かないけれど、予定からするとそんなにウロウロはしないだろうし、大丈夫なはず。

 それに、シンプルで落ち着いたベージュ系のハンドバッグを合わせてみた。

 髪の毛は迷ったけれど、邪魔にならないようにポニーテールに。全て引き詰めてみたら、気合が入りすぎた感じになってしまったので、サイドのところをほんの少しゆるっと垂らして、スカートに合わせたピンク系のシュシュを留めた。

 まるでお見合い写真の撮影におもむくみたいな気合いの入れようだな、と自分で思ってしまったけれど、今日は私にとって戦場いくさばへ出陣するような気持ちの日だから。

 ビシッと決めて、気持ちを引き締めたいと思ってしまった。
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