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お会いできますか?
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電話をかけるという行為はどうしてこんなにも緊張するのでしょう。
自室に戻って、健二さんの連絡先をスマートフォン内の電話帳から呼び出すと、ベッドに腰掛けて深呼吸をする。
「健二さんのご都合の宜しい日に、一度お会い出来ませんか?」
馬鹿のひとつ覚えみたいにさっきから何度も何度も同じ言葉を繰り返している。
通話ボタンを押して、相手に通じてからでないと何度重ねたって意味のない行為なのに。
心臓がバクバク言って、スマートフォンを持つ手が小刻みに震えている。
何度目になるかわからないけれど、私はもう一度深呼吸をした。
……と、手の中のスマートフォンがいきなりブルッと震えて、思わず飛び上がってしまう。着信音はシャラーン!と一瞬だけで。
驚きの余り着信と同時にベッド上へ放り投げてしまったスマートフォンを恐る恐る取り上げると、画面に新着メッセージの到着を知らせる通知と一緒に、『修太郎さん』と出ていた。
「修太郎さんっ!」
はからず笑顔になって、急いで通知をタップすると、ショートメッセージの画面が開いた。
画面上に、吹き出しマークが出ていて、そのなかに
『いま、無事家に帰り着きました。
日織さん、色々大変だとは思いますが、頑張ってふたりで乗り越えて行きましょうね。
さっきお別れしたばかりだというのに、可愛い貴女のお顔が見たくてたまりません』
絵文字も何もない、文字だけのシンプルなメッセージ。それなのに、ちゃんと私をとろけさせる甘い言葉も書かれていて。全てが、修太郎さんらしく思えて、嬉しくて照れてしまう。
私は修太郎さんから頂いたメッセージを、愛しい気持ちに突き動かされるように、指先でそっと撫でた。
と、それに反応して、予期せず返信文入力の画面になって。
「あ、返信……」
そこでやっと、そのことに思い至る。
通話と違って、メッセージには返信を返さなければ送った側には受け手の反応は伝わらない。
『無事のお着き、ホッといたしました。
大好きな修太郎さんと、たくさんたくさん一緒にいられるように、私も一生懸命がんばります!』
タッチパネル上の文字の配置が覚えられていないので、短い文章なのにとても時間がかかってしまった。
修太郎さんへの返信なので、思い切り可愛らしくしたくて、絵文字をああでもない、こうでもないと吟味して、あちこちにちりばめる。
画面の上で、キラキラチカチカ小さな可愛い絵文字が踊る。“大好き”の後に、ハートの絵文字をつけては消し、つけては消し、を何度か繰り返してから、結局思い切って付けたままにする。
出来上がった文を照れながら読み返してから、私は「えいっ!」と掛け声をかけて送信ボタンを押した。
途端、ピョインというユニークな音がして、私が送ったメッセージが吹き出しになって修太郎さんのメッセージの下へ連なる。
「ショートメッセージってこんな感じなんですね」
誰にともなくつぶやくと、ふと思い立って、もう一度健二さんの連絡先を呼び出した。
『はじめまして。日織です。
このたび、携帯電話を持つことになりましたので、番号をお知らせいたします。
番号は――』
そこまで打ってから、お母様のために書いたメモを見ながら、自分の携帯番号を間違えないよう慎重に入力する。
本当は、番号なんて打ち込まなくても、送った時点で相手に私の番号が通知されるのだということを、この時の私はまだ知らなくて。
さっき、修太郎さんへ送ったメッセージとは違って、文字だけの味気ない用件だけのメッセージ。
シンプルなのに、送るとなると気持ちのほうは複雑にもつれて、手がブルブル震えた。
やっとの思いで送信ボタンを押したあとで、『はじめまして』はおかしかった、と気が付いて。
と、取り消し!と思ったのにすぐ〝既読〟の文字がついて、後の祭りだと思い知った。
一度読まれてしまったメッセージは、例え消したとしても意味がない。
私はたった今、そのことを学んだ。
「うーーーー」
――恥ずかしいのですっ。
小さく唸りながら送信済みのメッセージと睨めっこしていたら、またしても手にしたスマートフォンがブルブルと振動して、着信を知らせる黒電話の音が鳴った。
短いシャラーン音とは明かに違うその音は、音声通話の要求を知らせる音で。
あたふたと画面を見ると、
「健二さん……!」
だった。
電話をかけるという行為はどうしてこんなにも緊張するのでしょう。
自室に戻って、健二さんの連絡先をスマートフォン内の電話帳から呼び出すと、ベッドに腰掛けて深呼吸をする。
「健二さんのご都合の宜しい日に、一度お会い出来ませんか?」
馬鹿のひとつ覚えみたいにさっきから何度も何度も同じ言葉を繰り返している。
通話ボタンを押して、相手に通じてからでないと何度重ねたって意味のない行為なのに。
心臓がバクバク言って、スマートフォンを持つ手が小刻みに震えている。
何度目になるかわからないけれど、私はもう一度深呼吸をした。
……と、手の中のスマートフォンがいきなりブルッと震えて、思わず飛び上がってしまう。着信音はシャラーン!と一瞬だけで。
驚きの余り着信と同時にベッド上へ放り投げてしまったスマートフォンを恐る恐る取り上げると、画面に新着メッセージの到着を知らせる通知と一緒に、『修太郎さん』と出ていた。
「修太郎さんっ!」
はからず笑顔になって、急いで通知をタップすると、ショートメッセージの画面が開いた。
画面上に、吹き出しマークが出ていて、そのなかに
『いま、無事家に帰り着きました。
日織さん、色々大変だとは思いますが、頑張ってふたりで乗り越えて行きましょうね。
さっきお別れしたばかりだというのに、可愛い貴女のお顔が見たくてたまりません』
絵文字も何もない、文字だけのシンプルなメッセージ。それなのに、ちゃんと私をとろけさせる甘い言葉も書かれていて。全てが、修太郎さんらしく思えて、嬉しくて照れてしまう。
私は修太郎さんから頂いたメッセージを、愛しい気持ちに突き動かされるように、指先でそっと撫でた。
と、それに反応して、予期せず返信文入力の画面になって。
「あ、返信……」
そこでやっと、そのことに思い至る。
通話と違って、メッセージには返信を返さなければ送った側には受け手の反応は伝わらない。
『無事のお着き、ホッといたしました。
大好きな修太郎さんと、たくさんたくさん一緒にいられるように、私も一生懸命がんばります!』
タッチパネル上の文字の配置が覚えられていないので、短い文章なのにとても時間がかかってしまった。
修太郎さんへの返信なので、思い切り可愛らしくしたくて、絵文字をああでもない、こうでもないと吟味して、あちこちにちりばめる。
画面の上で、キラキラチカチカ小さな可愛い絵文字が踊る。“大好き”の後に、ハートの絵文字をつけては消し、つけては消し、を何度か繰り返してから、結局思い切って付けたままにする。
出来上がった文を照れながら読み返してから、私は「えいっ!」と掛け声をかけて送信ボタンを押した。
途端、ピョインというユニークな音がして、私が送ったメッセージが吹き出しになって修太郎さんのメッセージの下へ連なる。
「ショートメッセージってこんな感じなんですね」
誰にともなくつぶやくと、ふと思い立って、もう一度健二さんの連絡先を呼び出した。
『はじめまして。日織です。
このたび、携帯電話を持つことになりましたので、番号をお知らせいたします。
番号は――』
そこまで打ってから、お母様のために書いたメモを見ながら、自分の携帯番号を間違えないよう慎重に入力する。
本当は、番号なんて打ち込まなくても、送った時点で相手に私の番号が通知されるのだということを、この時の私はまだ知らなくて。
さっき、修太郎さんへ送ったメッセージとは違って、文字だけの味気ない用件だけのメッセージ。
シンプルなのに、送るとなると気持ちのほうは複雑にもつれて、手がブルブル震えた。
やっとの思いで送信ボタンを押したあとで、『はじめまして』はおかしかった、と気が付いて。
と、取り消し!と思ったのにすぐ〝既読〟の文字がついて、後の祭りだと思い知った。
一度読まれてしまったメッセージは、例え消したとしても意味がない。
私はたった今、そのことを学んだ。
「うーーーー」
――恥ずかしいのですっ。
小さく唸りながら送信済みのメッセージと睨めっこしていたら、またしても手にしたスマートフォンがブルブルと振動して、着信を知らせる黒電話の音が鳴った。
短いシャラーン音とは明かに違うその音は、音声通話の要求を知らせる音で。
あたふたと画面を見ると、
「健二さん……!」
だった。
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