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お会いできますか?

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 結局、先の路地のところで修太郎しゅうたろうさんのお車を降りて、自宅へ帰った。

 修太郎さんは私が曲がり角を曲がって見えなくなるまで車を動かさずに見守ってくださって、門をくぐる頃には、向きを変えていらして家の前を通り過ぎた。

 クラクションを鳴らすとか、ライトでパッシングするとか、そういう目立ったサインは何ひとつお出しにはならなかったけれど、私と目が合った瞬間、軽く片手を挙げて通り過ぎられて。

 たったそれだけのことでとても嬉しくなって、同時にちょっぴり照れてしまった。修太郎さんが私を気にかけてくださると思えるだけで、なんて満ち足りた気分になれるんだろう。

「ただいま戻りました」

 ほわほわと浮き足だった気持ちのまま、家の玄関を開けながら声をかけると、ちょうど廊下を歩いていらしたお母様と出会って。

「お帰りなさい、日織ひおり。ニコニコしてるけど何か楽しいことがあった?」
 と聞かれてしまった。

 私はお母様のその言葉にドキッとしてしまう。

 でも、お母様はすぐに私が手にしたdoconoドコノの袋に視線を落とされて、「ああ、携帯を契約したからルンルンなのね」とおっしゃった。

 私は一瞬「え?」と思ったけれど、お母様の勘違いに乗っかることにした。

「はい、無事に契約できました。番号、後でお教えしますね」

 気持ちを切り替えて、鞄の中からスマートフォンを取り出すと、母に見せながらにっこり笑う。

 本当はすぐにでも教えて差し上げたかったのだけれど、あいにく自分の番号を呼び出す方法が分からなくて。
 お母様は携帯をお持ちになられていないので、先ほど修太郎さんにしたように、着信履歴を残して……という方法が使えない。

(先にお父様の携帯に電話をかけさせて頂いて、そこから自分の番号をメモさせて頂くしかないのですっ)

 そこまで考えて、何だかやけに回りくどいなぁと思ったらおかしくなってしまった。

 帰宅直後、修太郎さんの気遣いが嬉しくて舞い上がっていた気持ちとは別の感情がムクムクと芽生えて、今度こそスマートフォンが原因でクスクス笑ってしまう。

「日織?」

 お母様が不思議そうな顔をしてこちらをご覧になられるのへ、「私、本当に機械音痴だなぁって思ったら何だか笑えてきてしまいました」と答えてから、「先にお父様の携帯へ着信履歴を残して参りますね。それでお父様に私の番号、見せていただこうと思うのです。お母様へはそれから……」と、頭で組み立てた通りの説明をする。

 お母様はそんな私を見て一瞬きょとんとなさってから、「貴女は若いんだから、すぐに使いこなせるようになるわ」と言って微笑まれた。

「そうだと嬉しいんですけれど」

 言ってから、「では後ほど」と頭を下げてお母様の横を通過すると、とりあえず自室へ向かう。
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