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*車の中

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「……正直少し前まではたまに味気ないな、と思うこともありました。……ですが――」

 私はさっきの質問への答えをくださっているんだとハッとする。

 何となく直視するのは恥ずかしくて、私の手をギュッと握ってくださっている修太郎しゅうたろうさんの手に視線を落としながら私は彼の言葉に耳を傾けた。

「ですが、今では――先日のように好きな女性が可愛らしく酔っているのを誰にも気兼ねすることなく連れ帰ることが出来るので……一人も悪くないなと思えるようになりました」

 そこで私が先の晩のことを思い出してビクッとしたのを見て、クスクスお笑いになる。

「あのっ修太郎さん、お願いですっ。どうかあの夜のことは……忘れて、ください……」

 どう考えてもあの日の私は醜態しゅうたいをさらしたとしか思えない。

 初めての飲みの席で、呂律ろれつが回らないほど酔っ払って……挙句あげくの果てに夢と現実うつつの違いが分からなくなって色々告白やらかしてしまったとか……恥ずかしいにもほどがあるっ。

 余りに恥ずかしくて、ふるふると震えながらそう言ったら、ちょうど車が信号待ちで止まった。

「どうして? 僕はあの日の日織ひおりさんの可愛らしい姿を絶対に忘れたくはないのに」

 言って、繋いだままの私の手を持ち上げると、修太郎さんは私の視線が絡むのを意図的に確認なさってから、その手の甲にキスを落とされた。

 そうして、私の人差し指を軽く口に含んでいらして――。

 私はどうしてもその様子から視線が外せなくて……恥ずかしいのにじっと見つめてしまう。
 修太郎さんの唇が触れたところから熱が伝染してくるようで、一気に全身が燃え上がるような熱を帯びてしまった。

「あ、……んっ」

 ただ、指にほんの少し舌を這わされただけ。
 それだけのことなのに、背中をゾクリと快感が突き抜けて、私は思わず小さく吐息をらしてしまう。

 これ以上この状態が続いたらおかしくなってしまう。

 そう思ったとき、信号が青に変わって、修太郎さんは私の指先をチュッと吸い上げると、何事もなかったように手を元の場所に下ろされた。

 車が動き始めて、窓外を流れるように景色が過ぎ去っていく。
 それを見るとはなしに見つめながら、私は切ない気持ちで太腿ふとももにぎゅっと力をこめる。

 いま修太郎さんのほうを見てしまったら、今度こそどうにかなってしまいそうで、私は視線を窓から離せない。でも、実際には何ひとつまともに見えてなんかいなくて。

 私はなんとも言えない苦しさに、思わず左手を胸に当てた。

 意識の大半を占めているのは、手の下で暴れ狂っている心臓をなだめる方法すべと、身体の中心に向けて集まりつつある熱をいかにして追い払うか、ということばかり。
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