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連絡先と連絡手段
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「本心を言うとね、日織さんは僕の彼女です、とみんなに見せつけたいくらいです……」
まっすぐ私を見つめて告げられた修太郎さんの言葉に照れてしまった私は、赤くなった顔を隠したくてうつむいた。そんな私の耳元へ、修太郎さんが唇を寄せておっしゃる。
「――そうすれば、悪い虫も寄ってこないでしょう?」
「しゅっ、修太郎さんっ」
さすがにお互い許婚のことが解決していないのに、それは良くないと思う。
吐息を吹きかけられてぶわりと熱を持った左耳を押さえて、思わず一歩後ずさる。
修太郎さんは、そんな私を楽しげに微笑をたたえて見つめていらして。
私は彼に見つめられただけでドキドキと胸が苦しくなってしまう。そのままではいけない気がして、慌てて鞄を持つ自分の手元に彷徨わせるようにして視線を逃がした。
「……わ、私、携帯の契約が終わったら、健二さんに連絡してみるつもりです」
意を決して彼の方を見つめてそう言うと、「契約後一番最初に電話をする相手は僕じゃないんですか?」と渋い顔をされる。
「あ、そ……それはっ、もちろんそのつもりですっ。健二さんへのお電話はその後の話で……」
慌ててそう言ったら、クスクスと笑われた。
「ごめんなさい。分かっていて言いました」
眼鏡のつるを片手で押し上げながらそうおっしゃるのへ、小さな声で「意地悪……」とごちてから、
「修太郎さんの方は大丈夫なんですか?」
今まで聞きたくてもなかなか言えなかったことを思い切って聞いてみる。
「僕の方?」
私の言葉に得心がいかないと言うお顔をなさるのへ、中本さんからお聞きしたお話をする。
「修太郎さんにも、決められた方がいらっしゃるのでは――?」
聞いてはみたものの、はっきりとしたお答えを聞くのは怖くて、思わずうつむく。
そんな私の頭を再度優しく撫でていらっしゃると、修太郎さんが静かな声音でおっしゃった。
「そのことでしたら大丈夫。……日織さんは気にしなくていいことです」
修太郎さんが、お相手の存在を否定なさらなかったことにショックを受けてしまった私は、とても自分勝手だと思う。
自分にも健二さんがいて……もしも修太郎さんが私と同じように思っていてくださるのだとしたら……修太郎さんにとって健二さんの存在は間違いなく心憂いものになっているはずだと思うのに。
(私ばっかり傷ついた気になるなんて、いけないことなのです……)
私は修太郎さんに見えない角度で鞄を握る手にギュッと力を込めると、気持ちを切り替える努力をした。
「――じゃあ私、そろそろ行きますね」
薄く微笑んで修太郎さんを見つめたけれど、うまく笑顔になれていないかも。
でも、幸いなことに私は太陽を背負う形になっていて。修太郎さんは私のほうを眩しそうに目を眇めて見返していらした。
それをいいことに、泣きそうなのを誤魔化すようにくるりと踵を返したら、腕をギュッと捕われて引き留められた。
「しゅう……」
何事かと彼のお名前を呼ぼうとしたら、修太郎さんにグイッと引き寄せられて、口付けられてしまい――。
「……んっ」
誰かに見られてしまうかも……という思いは、彼の舌が私の舌を絡めとるように吸い上げた途端、瞬く間に霧散していた。
紅に染まる夕陽を背に、私は修太郎さんと、周りのことが全て消し飛んでしまうような、うっとりするキスをした――。
まっすぐ私を見つめて告げられた修太郎さんの言葉に照れてしまった私は、赤くなった顔を隠したくてうつむいた。そんな私の耳元へ、修太郎さんが唇を寄せておっしゃる。
「――そうすれば、悪い虫も寄ってこないでしょう?」
「しゅっ、修太郎さんっ」
さすがにお互い許婚のことが解決していないのに、それは良くないと思う。
吐息を吹きかけられてぶわりと熱を持った左耳を押さえて、思わず一歩後ずさる。
修太郎さんは、そんな私を楽しげに微笑をたたえて見つめていらして。
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慌ててそう言ったら、クスクスと笑われた。
「ごめんなさい。分かっていて言いました」
眼鏡のつるを片手で押し上げながらそうおっしゃるのへ、小さな声で「意地悪……」とごちてから、
「修太郎さんの方は大丈夫なんですか?」
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「僕の方?」
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聞いてはみたものの、はっきりとしたお答えを聞くのは怖くて、思わずうつむく。
そんな私の頭を再度優しく撫でていらっしゃると、修太郎さんが静かな声音でおっしゃった。
「そのことでしたら大丈夫。……日織さんは気にしなくていいことです」
修太郎さんが、お相手の存在を否定なさらなかったことにショックを受けてしまった私は、とても自分勝手だと思う。
自分にも健二さんがいて……もしも修太郎さんが私と同じように思っていてくださるのだとしたら……修太郎さんにとって健二さんの存在は間違いなく心憂いものになっているはずだと思うのに。
(私ばっかり傷ついた気になるなんて、いけないことなのです……)
私は修太郎さんに見えない角度で鞄を握る手にギュッと力を込めると、気持ちを切り替える努力をした。
「――じゃあ私、そろそろ行きますね」
薄く微笑んで修太郎さんを見つめたけれど、うまく笑顔になれていないかも。
でも、幸いなことに私は太陽を背負う形になっていて。修太郎さんは私のほうを眩しそうに目を眇めて見返していらした。
それをいいことに、泣きそうなのを誤魔化すようにくるりと踵を返したら、腕をギュッと捕われて引き留められた。
「しゅう……」
何事かと彼のお名前を呼ぼうとしたら、修太郎さんにグイッと引き寄せられて、口付けられてしまい――。
「……んっ」
誰かに見られてしまうかも……という思いは、彼の舌が私の舌を絡めとるように吸い上げた途端、瞬く間に霧散していた。
紅に染まる夕陽を背に、私は修太郎さんと、周りのことが全て消し飛んでしまうような、うっとりするキスをした――。
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