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連絡先と連絡手段

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日織ひおりももう成人してるんだし、そんなに私たちに気を遣わなくても、したいようにしていいんだよ?」

 お父様は私が気を遣っているとおっしゃった。

 その言葉は、どこか携帯のことに関してのみに向けられているのではない気がして、私は思わずお父様のお顔をじっと見つめ返してしまう。

「今回みたいに何か言いたいことやしたいことが出来たら、遠慮なく言うんだよ? わかったね?」
 お父様はそう言って私の瞳をじっと見つめ返していらっしゃると、付け加えるように
「携帯、番号が決まったら、私と母さんにもちゃんと教えてくれるかい?」
 そう、おっしゃった。

 私は「もちろんなのです」と即答する。

 でも、ごめんなさい、お父様。一番最初に番号をお教えしたいのは修太郎しゅうたろうさんなのですっ、と心の中で謝罪して。

(――そのあとはお父様とお母様への報告もきちんといたします)

 そう付け加えた。


***


 翌日、私は終業後に修太郎さんに、彼が使っていらっしゃる携帯電話のことをお聞きした。
 どうせ持つのなら、修太郎さんと同じ会社――通信キャリアというみたい?――にしたいと思ったから。

 修太郎さんは、ご自身のスマートフォンを私に手渡してくださいながら、「僕のはdoconoドコノのこれです」とおっしゃった。
 スマートフォンには保護のためにカバーをつけるものだと勝手に思い込んでいたけれど、修太郎さんのそれは裸のままで。
 サラサラとした機種本来の手触りを好もしく思いながら、シンプルなブラックが修太郎さんに似合っているなと、そんなことにすらときめいてしまう。

(私はおっちょこちょいだからカバーをつけないとダメでしょうけれど)

 き出しなのに、傷のほとんどついていない修太郎さんのスマートフォンを見て、彼のそつのなさを垣間見かいまみた気がした。


 「ありがとうございます」と機種を修太郎さんにお返しすると、彼はその画面の時計表示にチラリと視線を落とされてから、「ご一緒しましょうか?」とおっしゃった。でも、私はそれには丁寧にお断りを申し上げる。

「ごめんなさい。――今回は……全部自分の力でやってみたいのですっ」

 そう言ったら、頭をクシャリと撫でられた。

 人目から隠れるように、私と修太郎さんは階下へ降りる皆さんと逆走する形で、最上階の屋上を目指した。
 庁舎の屋上は庭園のようになっていて、所々にベンチが置かれている。

 幸い私たちがそこへ上がったとき、見える範囲には誰もおられなかったけれど、それでもどこか物陰に誰かがいらして……今のやり取りを見られてしまったかも、と思うとドキドキしてしまった。
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