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告白

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 塚田つかださんに導かれるまま、私はお店をあとにした。

「この時間帯は大通りを流してるが結構いるはずだから」
 そう仰った塚田さんに支えられてアーケードをほんの少し歩くと、すぐに国道に面した通りへ出た。
 と、程なくして塚田さんの言葉通り、一台のタクシーが捕まる。
 ドアが開くと同時に、塚田さんに支えられて、後部シートに乗り込んだ。
 席へ落ち着いてすぐ、コツン……とガラス窓に頭をもたせかけた私に気付いた塚田さんが、私の頭をそっと抱えて自分の方へ抱き寄せてくださる。

「走っている間、僕に寄りかかってしばらく眠るといい」
 言われて優しく頭を撫でられたけれど、初めてのシチュエーションの連続に、ドキドキが激しくなるばかりで――。

 健二けんじさん、ごめんなさい。せめて今夜だけは……夢を見させてください。
 ぼんやりした頭の中に、少しだけ芽生えた許婚いいなずけへの罪悪感。
 でもそれも、大好きな人の温もりが近くに感じられる嬉しさには敵わなくて、私は塚田さんに誘われるまま、素直に彼に身体を預けてうっとりとまぶたを閉じてしまう。

 そうしながら、ぼんやりと、お手洗いに行きたかったことを思い出したけれど、塚田さんにそんな恥ずかしいことを伝えられようはずもなく――。
 いよいよ限界になったら……その時に考えよう。

 お酒のためかな。いつもならもっとソワソワしてしまうようなことのはずなのに、悠長にそう思ってしまった。


***

「ん……」
 無意識に寝返りを打ったところで、「トイレ……」とつぶやいて、私は自分のその声に目を覚ました。

 塚田さんに寄り掛かって目を閉じていたときには、とてもじゃないけれどドキドキして眠れないと思っていた。それなのに、私は結局いつの間にか意識を手放してしまったみたい。

 ほんのりと薄暗い部屋の中で、私は見知らぬベッドに寝かされていた。身体には柔らかな布団もかけられていて。
 寝具全体から香る大好きな塚田さんと似た香りに、私は彼に包まれているような錯覚を覚えて眠りこんでいたらしい。

 でも、いま視線を巡らせて見ても、傍に塚田さんの姿はなくて。

 それに気付いたと同時に急に不安になった私は、慌てて身体を起こした。途端、くらくらとした眩暈《めまい》に襲われて、思わずベッドに手をついて身体を支える。
「……塚田つから、しゃん?」

 恐る恐るつぶやいてみたけれど、部屋の中には私以外の気配はないみたいだった。
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