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歓迎会

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「キミは本当に可愛らしいね。……いっそ健二のことなんて忘れて、僕だけのものになってくれたらいいのに」

 そんな私に、塚田さんが小さな声で、そう、おっしゃった……気がした。

「――っ!?」
 驚いて思わず塚田さんの方を見ると、塚田さんは何事もなかったようにビールを飲んでいらして。

(聞き、間違い? そもそも塚田さんが健二さんのお名前をご存知のはず、ないし……)

 好きがこうじすぎて、幻聴まで聴こえるようになってしまったのかも。――だとしたら、重症だ。

 私は塚田さんから慌てて視線をそらすと、一息に残っていたウーロン茶を飲み干す。
 それまでトイレに行きたくなるのを気にしてちびちびと飲んでいたけれど、そんなことを気にしているゆとりはなかった。
 だけど氷の溶けたそれは常温に近くなっていて、動揺で熱く火照った身体を冷ます助けにはなってくれなかった。

 と、ちょうどそのタイミングで、程よく酔いが回ってきた林さんが、「俺、生のお代わり頼みますけど皆さんどうしますか?」とおっしゃった。
「じゃあ、僕も同じものを」
「俺も」
 私以外のニ名が口々にそれに答える。

 私はそんな皆さんを横目に、ウーロン茶のグラスを持ったまま動きを停止したままだった。

 そんな私の様子に目を留めた林さんが、
「あれ? 藤原さん、それまだ一杯目のウーロン茶じゃないっすか? っていうか、空っぽだし。――そうだ! せっかくですし、次はお酒いきませんか?」
 言って、私の手からグラスを取り上げてしまう。

「す、すみません。私、お酒、飲んだことないんです……」
 未だぼんやりとした頭のまま、それでも何とかそれだけは伝える。
 職場の皆様との宴席で、初めての飲酒を経験して、もしも乱れてしまったら大変だ。
 塚田さんにだけはそんな醜態、さらしたくない。

 そう思ってやんわり辞退すると、林さんの隣に陣取っていた森重さんが、「何かあっても係長が責任を持って介抱してくれますって。だから飲みましょうよー」と林さんの援護についてしまう。

 日頃、外回りばかりで余り接点がないからか、お二人共私を見るとこんな風にタッグを組んで色々絡んでいらっしゃることが多い。
 実はそれが少し苦手だったりするんだけれど、私はいつも上手くかわすことが出来ない。

 過日電話で健二さんに言われた、「嫌ならちゃんとお断りしてください」の言葉をふと思い出してしまって、自分が情けなくなった。

 でも、せっかくの楽しい雰囲気を壊してはいけないと思ったら、上手な言葉が見つけられなくて。私は結局何も言えずに口ごもる。
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