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歓迎会
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金曜日。
定時に仕事を切り上げた公園緑地係の四人で、市役所から徒歩圏内の居酒屋へ行くことになった。
私はいつも職場までバスで行っているので、最終便までにお暇すればいいかしら?と思う。
どうやら予約したお店は私以外のメンバーにとっては馴染みらしく、着くなりここはレバーがとにかく絶品だよと口々にお勧めされた。
可愛らしい顔を前から見たいから!などと言われて、普段外回りをなさっている林さんと森重さんがテーブルを挟んだ向かい側に座られる。
それで、私は必然的に塚田さんの隣になってしまった。
林さんと森重さんからの、「可愛らしい顔」というおべっかも、「塚田さんの隣」という衝撃にかき消されて何も感じなくなってしまうくらい、私の心は揺さぶられていた。
(向かい側に座って塚田さんの顔を見てはドキドキしてしまうよりはマシなはず……!)
そう思おうとするものの、そんなに広くないスペースのため、隣と肩が触れそうな距離に、どうしても意識してしまう。
あまりにも近くに居すぎて、塚田さんが身に付けたシプレ系の香水の香りがほのかに鼻をかすめて、それがまた余計に心をざわつかせた。
そわそわと佇んだままの私に、塚田さんが「どうぞ」と自分の隣の椅子を引いてくださる。
塚田さんの眼鏡越しの優しい目と一瞬視線がかち合って、途端頬がぶわり、と熱を持つ。
「ありがとう、ございます」
慌ててうつむきがちに何とかそれだけを言うと、私は彼の隣に身体をギュッと縮こめて座る。
塚田さんが、係に私を迎えたことに対するお祝いの言葉を告げてくださる時も、私はすぐ横から聞こえてくる彼の声に半ば夢うつつで聞き惚れてしまっていた。ましてや、大好きな塚田さんが自分のことを話してくださっているのだと思うと、それだけで身体の芯がじわりと熱を持ってしまって。
「……わらさん、藤原さんっ?」
塚田さんに、気遣わしげに軽く肩に触れられて、私はハッと我にかえる。
「――挨拶、できそうですか?」
とても自然な動作でこちらに顔を寄せていらした塚田さんに、耳元でそう聞かれて、私はどうにかこうにか「が、頑張りますので、よろしくお願いしますっ」と何とも面白味のない言葉を発した。
塚田さんの吐息が掛かった耳が、いつまでもじんとした熱を帯びていて、気を抜くと頭がぼんやりしてしまいそうになる。
塚田さんの「乾杯!」の音頭で、男性陣がビールジョッキを掲げたのが見えて、私は慌てて自分のグラスに手を伸ばす。
お酒を飲んだことがない私は、大事をとってウーロン茶を頼んでいた。皆さんをならってそれを持ち上げると、周りが勝手に「かんぱーい」と言いながらグラスをカチン、と合わせてくださった。
お酒の席なんて初めてだけど、ついていけるかな。
塚田さんの眼鏡がかかった横顔を、ウーロン茶を飲みながらチラリと盗み見しながら、私は小さく吐息を漏らした。
男性の皆さんが、仕事の話や世間話を交えながら楽しそうに盛り上がる。
私はそんな皆さんを見るとはなしに眺めながら、時折話を振られた時にだけ笑顔で相槌を打っていた。
私が意図的に関わらなくても、皆さんお構いなしに盛り上がっていらっしゃる距離感が心地よくて、ほんの少しずつ緊張が解れてくる。
塚田さんがジョッキを持ち上げたり料理を召し上がられるたびに、視界の端に彼の腕まくりした二の腕が見えて、その男らしさにドキッとした。
それを誤魔化すようにおすすめされたレバーの煮物を口に運んだら、トロリと口の中で溶けていくようで、私はその美味しさに驚く。レバー独特の臭みも少なくて本当に食べやすい。
「うまいでしょう?」
レバーを口にしたまま思わず笑顔になっていた私に、塚田さんが小さく笑いながらそう話しかけていらっしゃる。
「……は、はい……っ」
あぁ、どうしよう。美味しさに気の抜けた顔をしていたの、見られてしまった!
恥ずかしさに、私は思わず真っ赤になってうつむいてしまう。
定時に仕事を切り上げた公園緑地係の四人で、市役所から徒歩圏内の居酒屋へ行くことになった。
私はいつも職場までバスで行っているので、最終便までにお暇すればいいかしら?と思う。
どうやら予約したお店は私以外のメンバーにとっては馴染みらしく、着くなりここはレバーがとにかく絶品だよと口々にお勧めされた。
可愛らしい顔を前から見たいから!などと言われて、普段外回りをなさっている林さんと森重さんがテーブルを挟んだ向かい側に座られる。
それで、私は必然的に塚田さんの隣になってしまった。
林さんと森重さんからの、「可愛らしい顔」というおべっかも、「塚田さんの隣」という衝撃にかき消されて何も感じなくなってしまうくらい、私の心は揺さぶられていた。
(向かい側に座って塚田さんの顔を見てはドキドキしてしまうよりはマシなはず……!)
そう思おうとするものの、そんなに広くないスペースのため、隣と肩が触れそうな距離に、どうしても意識してしまう。
あまりにも近くに居すぎて、塚田さんが身に付けたシプレ系の香水の香りがほのかに鼻をかすめて、それがまた余計に心をざわつかせた。
そわそわと佇んだままの私に、塚田さんが「どうぞ」と自分の隣の椅子を引いてくださる。
塚田さんの眼鏡越しの優しい目と一瞬視線がかち合って、途端頬がぶわり、と熱を持つ。
「ありがとう、ございます」
慌ててうつむきがちに何とかそれだけを言うと、私は彼の隣に身体をギュッと縮こめて座る。
塚田さんが、係に私を迎えたことに対するお祝いの言葉を告げてくださる時も、私はすぐ横から聞こえてくる彼の声に半ば夢うつつで聞き惚れてしまっていた。ましてや、大好きな塚田さんが自分のことを話してくださっているのだと思うと、それだけで身体の芯がじわりと熱を持ってしまって。
「……わらさん、藤原さんっ?」
塚田さんに、気遣わしげに軽く肩に触れられて、私はハッと我にかえる。
「――挨拶、できそうですか?」
とても自然な動作でこちらに顔を寄せていらした塚田さんに、耳元でそう聞かれて、私はどうにかこうにか「が、頑張りますので、よろしくお願いしますっ」と何とも面白味のない言葉を発した。
塚田さんの吐息が掛かった耳が、いつまでもじんとした熱を帯びていて、気を抜くと頭がぼんやりしてしまいそうになる。
塚田さんの「乾杯!」の音頭で、男性陣がビールジョッキを掲げたのが見えて、私は慌てて自分のグラスに手を伸ばす。
お酒を飲んだことがない私は、大事をとってウーロン茶を頼んでいた。皆さんをならってそれを持ち上げると、周りが勝手に「かんぱーい」と言いながらグラスをカチン、と合わせてくださった。
お酒の席なんて初めてだけど、ついていけるかな。
塚田さんの眼鏡がかかった横顔を、ウーロン茶を飲みながらチラリと盗み見しながら、私は小さく吐息を漏らした。
男性の皆さんが、仕事の話や世間話を交えながら楽しそうに盛り上がる。
私はそんな皆さんを見るとはなしに眺めながら、時折話を振られた時にだけ笑顔で相槌を打っていた。
私が意図的に関わらなくても、皆さんお構いなしに盛り上がっていらっしゃる距離感が心地よくて、ほんの少しずつ緊張が解れてくる。
塚田さんがジョッキを持ち上げたり料理を召し上がられるたびに、視界の端に彼の腕まくりした二の腕が見えて、その男らしさにドキッとした。
それを誤魔化すようにおすすめされたレバーの煮物を口に運んだら、トロリと口の中で溶けていくようで、私はその美味しさに驚く。レバー独特の臭みも少なくて本当に食べやすい。
「うまいでしょう?」
レバーを口にしたまま思わず笑顔になっていた私に、塚田さんが小さく笑いながらそう話しかけていらっしゃる。
「……は、はい……っ」
あぁ、どうしよう。美味しさに気の抜けた顔をしていたの、見られてしまった!
恥ずかしさに、私は思わず真っ赤になってうつむいてしまう。
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