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高橋さんのアドバイス

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「藤原さん、許婚がいるって本当ですか?」

 前置きも何にもない、直球な質問に私は思わず息を飲む。
 隠していたわけではないし、そもそも自分で中本さんにカミングアウトしたりもしている。むしろ周知されている方が私自身、塚田さんへの気持ちを抑える歯止めになっていいかもしれない。
「はい、実はそうなんです」
 そう考えた私は、うなずきながらにっこり微笑んだ。

「――で、藤原さんはその男のこと、好きで嫁ぐんですか?」
 私の笑顔を真顔で受け流すと、高橋さんがさらに言い募ってくる。
「え?」
 まさかそこまで突っ込んだことを言われるとは思っていなかった私は、間の抜けた声を発してしまった。

 幼い時分から両親に、「お前には許婚がいる」と言われて育てられてきた私は、今の今まで健二さんのことを好きかどうかなんて考えたこともなかった。
 親に決められた許婚なのだから、結婚しなければいけない。そう思っていたから。

「……分かり、ません。――実は……幼い頃に一度お会いしたことがあるだけなので……」

 健二さんのことを好きかどうかと思いを巡らせた途端、何故か頭の中に塚田さんの笑顔が思い浮かんでしまって、思わず語尾が曖昧になる。

「俺、妹が二人いるって言ったじゃないですか。だから藤原さんのこともうちのやつらに重ね合わせて見ちゃうところがあるんですけど……いまどき親に言われたからって好きでもない相手と添い遂げる必要なんて微塵もないと思うんですよ。要らんお世話かもしれないですけど……相手だって貴女に会いに来ないってことはどういう気持ちか分かったもんじゃないと思いますし」
 相手が、貴女に夢中というのならいざ知らず……と小声で付け加えられて、私は図星をさされた気がした。

 自分自身、健二さんからの指令でここに働きにきてはみたものの、どうしてお父様づてでそんなことを仰るんだろう、と薄々思っていたから。
 直接顔も見にきたくない興味のない娘だから、何だかんだ理由を付けて断る口実を探しておられるんじゃないだろうか。

 考えてみれば、そもそも私だって健二さんに会う努力をしてこなかったのだから同罪だ。

 私みたいな世間知らずを嫁にもらわねばならない運命さだめを背負わされた健二さんを思うと、申し訳ない気持ちになってしまった。

「……正直、私なんかをもらってくださるなんて……有り難いことだと思っています」

 そう思い至った私は、うつむき加減でつぶやくように言った。途端、高橋さんがムッとした顔をなさる。

「私なんか、なんて言い方は感心しません。確かに藤原さんはホワッとしたところがある不思議な女性ですが、そんな風に自分を卑下しなきゃいけないような醜女しこめではありませんし、むしろ可愛いほうだと思います。性格だってそんなに悪くない。もっと自信を持っていいと思いますよ?」

 サラリとすごい誉め殺しをされた気がして、私は少し照れてしまう。

「も、持ち上げ、過ぎです……」

 ゴニョゴニョとそう返しながら、それでも塚田さんに「可愛い」と言われた時みたくドキドキしない事に内心ホッとした。

「とにかく! ずっと気になってたんで、兄貴面あにきづらして偉そうにアドバイスしてみました。好きな人がいるならいるで、ちゃんと自分の気持ちに向き合わないと、きっと後悔しますよ? 分かりましたか?」

 言って、ウインクをしてみせる高橋さんに、私はお兄様がいらしたらこんな感じなのかしら?と胸の奥がじんとした。
 そうして、はっきりとは言われなかったけれど、私の塚田さんへの想いは高橋さんにもダダ漏れなのかな?とも思ってしまった。

 私は高橋さんの言葉にしっかりうなずくと、丁寧にお礼を言って、きびすを返す。

 と――。
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