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管理係の中本さん
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「中本さーん! 今、大丈夫ですか?」
その声に、すぐさま中本さんと呼ばれた女性がこちらへやってくる。
年のころは私より七つ、八つ上だろうか。今日都市計画課の中で出会ったどの女性陣よりも、彼女が一番年齢が近いように思う。
「すみません、お忙しいのに」
塚田さんがそう前置きするのへ、
「大丈夫です。塚田さんの呼び出しならいつでも大歓迎です!」
言って、とても嬉しそうにニコッと笑う彼女を見て、私は悟った。
――彼女も、塚田さんのことが好きなんだ、と。
「えっと、こちら、今日からうちの係に配属になった臨職の藤原日織さんです」
私をとても優しい目で見つめながら紹介してくださる塚田さんに合わせて、私は出来るだけ礼儀正しくお辞儀をした。
「藤原日織です。よろしくお願いします」
続いて、塚田さんが眼前の女性を私に紹介しようとしたら……
「管理係の中本佳苗です、よろしく!」
彼の言葉を待たずに、自ら自己紹介を終えた中本さんが、私に向かってサッと手を差し出してくる。
慌ててその手を取ると、思いのほか強くギュッと握られてしまった。私は、思わず痛さで顔をしかめそうになって、そんなことをするのは失礼だと我慢する。
「中本さん、申し訳ないんですが、藤原さんを女子更衣室まで案内してもらえますか? 失念していたんですが、空きのロッカーを彼女が使えるようにしていただけると助かります。……さすがに僕がそこへお連れするわけにはいかないので」
申し訳なさそうに頭を下げる塚田さんを見て、中本さんが「お安い御用です」と笑顔で返す。
そうして私の方に向き直ると、「さ、藤原さん、こっちです」と声を掛けてくれた。
私は机上に置いたままになっていたカバンを手に取ると、慌てて中本さんの後を追った。
***
中本さんは更衣室に入るなりすぐ、こちらを振り返って「どういうつもり?」と聞いてきた。
意味が分からなくてきょとんとすると、「貴女、塚田さんのこと、狙ってるでしょう?」と睨まれる。
「え……?」
彼女が言っている言葉の意味が理解できなくて、一瞬固まってしまう。
でも、すぐに私が塚田さんに対して抱いている気持ちを見抜かれてしまったのだと思い至ってハッとする。
こういうことにうとい私だって、中本さんの恋心に気付けたのだ。彼女が私のそれに気付いたとしても不思議ではない。
でも、ここでそれを認めるわけにはいかない。
「あの、私には……許婚がいます」
「それが塚田さんだとでも?」
いうが早いか、中本さんに物凄い勢いで詰め寄られる。
「いえ、違う方です。……なので、塚田さんは……違います……」
言葉にして言うと、胸の奥がズキン……と痛んだ。それで、後半声が小さくなってしまった。
「ふ~ん。許婚がいるからって結婚してるわけじゃなし、怪しいものね。でも、一応忠告しといてあげる。彼、決められた女性がいるとかで、誰にもなびかないから」
あなた同様、婚約者の方でもいらっしゃるんじゃない?とおっしゃる中本さんに、教えてくれなくてもよかったのに……と思いながら、でもこれで気持ちを吹っ切れるかな、とも考えた。
「そう、なんですね……」
考えはしたものの、やっぱり悲しくて……。思わず落ち込んだ声になってしまったのを、中本さんに目ざとく嗅ぎ分けられて再度にらまれる。
「そもそも貴女みたいに若い子より、ある程度は成熟した大人の女性のほうが塚田さんとは釣り合うはずよ? ――私みたいに」
そんなの、言われなくても分かっているのに。
勝ち誇ったように胸を張る中本さんから、私はそっと視線をそらした。そうして一度だけ深呼吸をすると、頑張って気持ちを切り替える。
その声に、すぐさま中本さんと呼ばれた女性がこちらへやってくる。
年のころは私より七つ、八つ上だろうか。今日都市計画課の中で出会ったどの女性陣よりも、彼女が一番年齢が近いように思う。
「すみません、お忙しいのに」
塚田さんがそう前置きするのへ、
「大丈夫です。塚田さんの呼び出しならいつでも大歓迎です!」
言って、とても嬉しそうにニコッと笑う彼女を見て、私は悟った。
――彼女も、塚田さんのことが好きなんだ、と。
「えっと、こちら、今日からうちの係に配属になった臨職の藤原日織さんです」
私をとても優しい目で見つめながら紹介してくださる塚田さんに合わせて、私は出来るだけ礼儀正しくお辞儀をした。
「藤原日織です。よろしくお願いします」
続いて、塚田さんが眼前の女性を私に紹介しようとしたら……
「管理係の中本佳苗です、よろしく!」
彼の言葉を待たずに、自ら自己紹介を終えた中本さんが、私に向かってサッと手を差し出してくる。
慌ててその手を取ると、思いのほか強くギュッと握られてしまった。私は、思わず痛さで顔をしかめそうになって、そんなことをするのは失礼だと我慢する。
「中本さん、申し訳ないんですが、藤原さんを女子更衣室まで案内してもらえますか? 失念していたんですが、空きのロッカーを彼女が使えるようにしていただけると助かります。……さすがに僕がそこへお連れするわけにはいかないので」
申し訳なさそうに頭を下げる塚田さんを見て、中本さんが「お安い御用です」と笑顔で返す。
そうして私の方に向き直ると、「さ、藤原さん、こっちです」と声を掛けてくれた。
私は机上に置いたままになっていたカバンを手に取ると、慌てて中本さんの後を追った。
***
中本さんは更衣室に入るなりすぐ、こちらを振り返って「どういうつもり?」と聞いてきた。
意味が分からなくてきょとんとすると、「貴女、塚田さんのこと、狙ってるでしょう?」と睨まれる。
「え……?」
彼女が言っている言葉の意味が理解できなくて、一瞬固まってしまう。
でも、すぐに私が塚田さんに対して抱いている気持ちを見抜かれてしまったのだと思い至ってハッとする。
こういうことにうとい私だって、中本さんの恋心に気付けたのだ。彼女が私のそれに気付いたとしても不思議ではない。
でも、ここでそれを認めるわけにはいかない。
「あの、私には……許婚がいます」
「それが塚田さんだとでも?」
いうが早いか、中本さんに物凄い勢いで詰め寄られる。
「いえ、違う方です。……なので、塚田さんは……違います……」
言葉にして言うと、胸の奥がズキン……と痛んだ。それで、後半声が小さくなってしまった。
「ふ~ん。許婚がいるからって結婚してるわけじゃなし、怪しいものね。でも、一応忠告しといてあげる。彼、決められた女性がいるとかで、誰にもなびかないから」
あなた同様、婚約者の方でもいらっしゃるんじゃない?とおっしゃる中本さんに、教えてくれなくてもよかったのに……と思いながら、でもこれで気持ちを吹っ切れるかな、とも考えた。
「そう、なんですね……」
考えはしたものの、やっぱり悲しくて……。思わず落ち込んだ声になってしまったのを、中本さんに目ざとく嗅ぎ分けられて再度にらまれる。
「そもそも貴女みたいに若い子より、ある程度は成熟した大人の女性のほうが塚田さんとは釣り合うはずよ? ――私みたいに」
そんなの、言われなくても分かっているのに。
勝ち誇ったように胸を張る中本さんから、私はそっと視線をそらした。そうして一度だけ深呼吸をすると、頑張って気持ちを切り替える。
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