317 / 324
■『イタズラしちゃうぞ!』■2022年ハロウィン合わせの書き下ろし短編
イタズラさせて?
しおりを挟む
「ガオー!」
狼耳のカチューシャを頭に付けていた。
その姿に葵咲が一瞬だけ大きく瞳を見開いて。
ややしてすぐにクスクスと笑い出す。
「やだ。何それ理人、めっちゃ可愛い」
笑いながら理人の耳に手を伸ばそうとしたら、その手をギュッと握られてしまった。
「トリックオアトリート! おやつはないだろうからいたずらさせて?」
エプロン姿の葵咲が、手に何も持っていないことは織り込み済みだ。
したり顔でニヤリとする理人に、葵咲は幾分もたじろいだ様子なくニコッと微笑んで。
「――残念でした。はい、飴♥」
エプロンのポケットから個包装された飴の包みを数個、理人の手に握らせる。
「えっ」
理人が手のひらを見ると、ジャックオーランタンとコウモリ、それからお化けの描かれた金太郎飴が透明パッケージの中から愛らしくこちらを見上げていた。
「嘘ぉー。そんなぁ~」
ガクッと肩を落としてうなだれた理人に「何年理人と一緒にいると思ってるの?」と葵咲がにっこり笑う。
つまりは「全てお見通しだったよ?」と。そう言われているのだと悟った理人は、やっぱり葵咲ちゃんには敵わないなぁ……と意気消沈した。
でも――。
そんな理人の腕をスルリとすり抜けた葵咲が、セレそっくりの黒猫耳のカチューシャを付けて「トリックオアトリート!」と返してきたからたまらない。
「え、あ、あの……、葵咲?」
どうやら猫耳も、飴同様エプロンのポケットに仕込んでおいたらしい葵咲に、理人は今度こそ完敗だ。
手には、たったいま葵咲に貰ったばかりの飴があったけれど。
理人は、それらをまるで最初からなかったみたいにそっとカウンターに置いた。
「ごめんね、葵咲。おもてなししようにも僕、あいにくキミに渡せそうなものがないんだ。だからさ……。イタズラでお願いしてもいいかな……?」
葵咲の、ほんの少し目尻の上がったアーモンドアイが自分をじっと見上げてくるのを感じて、理人は彼女のすぐ前にひざまずいた。
そうして、理人より二〇センチ以上背の低い葵咲が、自分に手を伸ばしやすいように調整する。
「きょ、今日だけ……その、とっ、特別なんだからねっ?」
葵咲が恥ずかしそうに小さくそうつぶやいて、そんな理人の頬に柔らかな唇を寄せてくれるから。
理人はこの上なく幸せな気持ちに包まれた。
「――ねぇ葵咲。イタズラなのにそんなに優しいキスひとつでお終いとか……冗談だよね? 僕、そんなんじゃ全然物足りないんだけど」
そっとすぐそばに立つ葵咲の手を引いて。
彼女を両腕に抱き込むなりイタズラの催促をした理人に、葵咲が真っ赤になってそっぽを向く。
「――わ、私ね……実はオヤツ、もう持ってないの。だ、だから理人っ。お願い。――もう一度だけさっきの、……言ってみて?」
もうこれ以上のイタズラは自分には無理です、と恥ずかしそうに白旗を上げた葵咲に、理人はニヤリと笑うと、
「トリックオアトリート!」
葵咲のために、もう一度だけ〝お決まりの文言〟を口の端に乗せた。
理人の言葉に、葵咲が困ったような……それでいてどこか熱に潤んだ瞳でこちらを見詰めてくるのを見返しながら、理人は今度こそ満足そうに微笑んで。
「――お菓子がないなら仕方がないね。葵咲、沢山沢山イタズラしちゃうから……覚悟してね?」
可愛い葵咲を、今度こそ腕の中にしっかりと閉じ込めた。
〝Happy Halloween!〟
(2022/10/29)
狼耳のカチューシャを頭に付けていた。
その姿に葵咲が一瞬だけ大きく瞳を見開いて。
ややしてすぐにクスクスと笑い出す。
「やだ。何それ理人、めっちゃ可愛い」
笑いながら理人の耳に手を伸ばそうとしたら、その手をギュッと握られてしまった。
「トリックオアトリート! おやつはないだろうからいたずらさせて?」
エプロン姿の葵咲が、手に何も持っていないことは織り込み済みだ。
したり顔でニヤリとする理人に、葵咲は幾分もたじろいだ様子なくニコッと微笑んで。
「――残念でした。はい、飴♥」
エプロンのポケットから個包装された飴の包みを数個、理人の手に握らせる。
「えっ」
理人が手のひらを見ると、ジャックオーランタンとコウモリ、それからお化けの描かれた金太郎飴が透明パッケージの中から愛らしくこちらを見上げていた。
「嘘ぉー。そんなぁ~」
ガクッと肩を落としてうなだれた理人に「何年理人と一緒にいると思ってるの?」と葵咲がにっこり笑う。
つまりは「全てお見通しだったよ?」と。そう言われているのだと悟った理人は、やっぱり葵咲ちゃんには敵わないなぁ……と意気消沈した。
でも――。
そんな理人の腕をスルリとすり抜けた葵咲が、セレそっくりの黒猫耳のカチューシャを付けて「トリックオアトリート!」と返してきたからたまらない。
「え、あ、あの……、葵咲?」
どうやら猫耳も、飴同様エプロンのポケットに仕込んでおいたらしい葵咲に、理人は今度こそ完敗だ。
手には、たったいま葵咲に貰ったばかりの飴があったけれど。
理人は、それらをまるで最初からなかったみたいにそっとカウンターに置いた。
「ごめんね、葵咲。おもてなししようにも僕、あいにくキミに渡せそうなものがないんだ。だからさ……。イタズラでお願いしてもいいかな……?」
葵咲の、ほんの少し目尻の上がったアーモンドアイが自分をじっと見上げてくるのを感じて、理人は彼女のすぐ前にひざまずいた。
そうして、理人より二〇センチ以上背の低い葵咲が、自分に手を伸ばしやすいように調整する。
「きょ、今日だけ……その、とっ、特別なんだからねっ?」
葵咲が恥ずかしそうに小さくそうつぶやいて、そんな理人の頬に柔らかな唇を寄せてくれるから。
理人はこの上なく幸せな気持ちに包まれた。
「――ねぇ葵咲。イタズラなのにそんなに優しいキスひとつでお終いとか……冗談だよね? 僕、そんなんじゃ全然物足りないんだけど」
そっとすぐそばに立つ葵咲の手を引いて。
彼女を両腕に抱き込むなりイタズラの催促をした理人に、葵咲が真っ赤になってそっぽを向く。
「――わ、私ね……実はオヤツ、もう持ってないの。だ、だから理人っ。お願い。――もう一度だけさっきの、……言ってみて?」
もうこれ以上のイタズラは自分には無理です、と恥ずかしそうに白旗を上げた葵咲に、理人はニヤリと笑うと、
「トリックオアトリート!」
葵咲のために、もう一度だけ〝お決まりの文言〟を口の端に乗せた。
理人の言葉に、葵咲が困ったような……それでいてどこか熱に潤んだ瞳でこちらを見詰めてくるのを見返しながら、理人は今度こそ満足そうに微笑んで。
「――お菓子がないなら仕方がないね。葵咲、沢山沢山イタズラしちゃうから……覚悟してね?」
可愛い葵咲を、今度こそ腕の中にしっかりと閉じ込めた。
〝Happy Halloween!〟
(2022/10/29)
0
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる