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■『イタズラしちゃうぞ!』■2022年ハロウィン合わせの書き下ろし短編
先に帰宅したのは葵咲
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「ただいまぁ~」
十月に入ると街中が一気にハロウィンムードを漂わせる。
そんな街を横目に、大学からマンションまでの徒歩数分間の道のりをアレコレ見ながら歩いて帰ってきた葵咲だ。
同棲中の婚約者・理人は葵咲より一時間近く遅れて帰るのが常。
ニャーン、と足元にすり寄ってきた黒猫セレを抱き上げると、ほこほこと温かかった。
きっと日向ぼっこでもしていたのだろう。
「セレただいま。――ご飯にしようね」
葵咲は理人の帰りを待ちながら、セレにご飯を上げたり夕飯の支度をしたり。
昨夜の内に理人が洗ってくれている浴室のお湯張りボタンを押したりと、甲斐甲斐しく動き回る。
そうこうしていたら理人が帰って来て。
ドアが開く前にソファに寝そべっていたセレがいち早く反応して廊下に出て行くから、葵咲にも愛しい人の帰宅がほんの少しだけ早く予測出来る。
鍋の火を一旦落とすと、葵咲もセレの後を追った。
***
「ただいまぁー」
玄関が開く音がしてスーツ姿の理人が入ってくるなり、セレが嬉しそうにその足元にまとわりつく。
それをちょっぴり羨ましく見つめながら、葵咲も理人に「お帰りなさい」をしたのだけれど。
葵咲至上主義の理人は、ニャーニャーと身体をすり寄せてくるセレを踏まないよう気を付けながら葵咲に近付くと、彼女の頬にチュッと軽い口付けをして葵咲の寂しさを瞬く間に払拭してくれるのだ。
「先に手とか洗ってくるね」
本当はすぐにでも葵咲を腕の中に抱きしめてしまいたい理人だけれど、そろそろインフルエンザも流行り始める時期。
手洗いうがいを優先させるねと宣言して、理人は洗面所へ向かった。
***
「いい匂いだね。今夜はクリームシチュー?」
鼻をひくつかせながらキッチンに立つ葵咲に近付いたら、「惜しい。今夜は鮭とほうれん草のクリームパスタよ?」と葵咲がにっこりする。
葵咲がかき混ぜる鍋の中で、鮭の色鮮やかなサーモンピンクと、ほうれん草の濃いグリーンが、もったりとしたクリームの中でふつふつと煮えたっていた。
なべ底にパスタソースが焦げ付かないよう木べらをゆっくり動かしている葵咲は、今日は裏起毛になった少し大きめのモスグレイのスウェットに、朱鷺色のスウェードのロングスカートという出で立ち。
その上にいつもしている大きなポケットが二つ付いたネイビーのエプロンをした姿は本当に可愛くて。理人はほぅっと吐息を落とす。
艶やかな黒髪をサイドでユルッとエアリーにクリップ留めしているのも女性らしくて本当に色っぽい。
理人は葵咲が料理の手を止めるのを、今か今かとそばでアレコレ手伝いながらずっと待っていたりする。
「パスタ。今日はフェットチーネにする?」
寸胴鍋に水を張りながら問うたら、葵咲がコクッとうなずいて。
スプーンでひと匙ホワイトソースをすくって理人に差し出してきた。
それに「あーん」と口を開けて応じると、葵咲がやたら照れくさそうにするから。
理人はとうとう我慢出来なくなった。
「うん。いい感じ」
味見の感想を端的に述べると、理人は葵咲の前に割り込むようにして鍋の火を止めてフタをする。
「理人?」
そんな理人に葵咲がキョトンとして。
理人は一度だけ葵咲に背を向けると、次の瞬間――。
十月に入ると街中が一気にハロウィンムードを漂わせる。
そんな街を横目に、大学からマンションまでの徒歩数分間の道のりをアレコレ見ながら歩いて帰ってきた葵咲だ。
同棲中の婚約者・理人は葵咲より一時間近く遅れて帰るのが常。
ニャーン、と足元にすり寄ってきた黒猫セレを抱き上げると、ほこほこと温かかった。
きっと日向ぼっこでもしていたのだろう。
「セレただいま。――ご飯にしようね」
葵咲は理人の帰りを待ちながら、セレにご飯を上げたり夕飯の支度をしたり。
昨夜の内に理人が洗ってくれている浴室のお湯張りボタンを押したりと、甲斐甲斐しく動き回る。
そうこうしていたら理人が帰って来て。
ドアが開く前にソファに寝そべっていたセレがいち早く反応して廊下に出て行くから、葵咲にも愛しい人の帰宅がほんの少しだけ早く予測出来る。
鍋の火を一旦落とすと、葵咲もセレの後を追った。
***
「ただいまぁー」
玄関が開く音がしてスーツ姿の理人が入ってくるなり、セレが嬉しそうにその足元にまとわりつく。
それをちょっぴり羨ましく見つめながら、葵咲も理人に「お帰りなさい」をしたのだけれど。
葵咲至上主義の理人は、ニャーニャーと身体をすり寄せてくるセレを踏まないよう気を付けながら葵咲に近付くと、彼女の頬にチュッと軽い口付けをして葵咲の寂しさを瞬く間に払拭してくれるのだ。
「先に手とか洗ってくるね」
本当はすぐにでも葵咲を腕の中に抱きしめてしまいたい理人だけれど、そろそろインフルエンザも流行り始める時期。
手洗いうがいを優先させるねと宣言して、理人は洗面所へ向かった。
***
「いい匂いだね。今夜はクリームシチュー?」
鼻をひくつかせながらキッチンに立つ葵咲に近付いたら、「惜しい。今夜は鮭とほうれん草のクリームパスタよ?」と葵咲がにっこりする。
葵咲がかき混ぜる鍋の中で、鮭の色鮮やかなサーモンピンクと、ほうれん草の濃いグリーンが、もったりとしたクリームの中でふつふつと煮えたっていた。
なべ底にパスタソースが焦げ付かないよう木べらをゆっくり動かしている葵咲は、今日は裏起毛になった少し大きめのモスグレイのスウェットに、朱鷺色のスウェードのロングスカートという出で立ち。
その上にいつもしている大きなポケットが二つ付いたネイビーのエプロンをした姿は本当に可愛くて。理人はほぅっと吐息を落とす。
艶やかな黒髪をサイドでユルッとエアリーにクリップ留めしているのも女性らしくて本当に色っぽい。
理人は葵咲が料理の手を止めるのを、今か今かとそばでアレコレ手伝いながらずっと待っていたりする。
「パスタ。今日はフェットチーネにする?」
寸胴鍋に水を張りながら問うたら、葵咲がコクッとうなずいて。
スプーンでひと匙ホワイトソースをすくって理人に差し出してきた。
それに「あーん」と口を開けて応じると、葵咲がやたら照れくさそうにするから。
理人はとうとう我慢出来なくなった。
「うん。いい感じ」
味見の感想を端的に述べると、理人は葵咲の前に割り込むようにして鍋の火を止めてフタをする。
「理人?」
そんな理人に葵咲がキョトンとして。
理人は一度だけ葵咲に背を向けると、次の瞬間――。
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