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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
約束を果たしに……4
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***
「ねぇ池本。確か午前中に来るって連絡してこなかった?」
2人でシャワーを浴びて、身支度を整えて。結構急いで家を出たんだけどその時にはすでにあと数分で正午ってところで。
当然着いたらお昼なんてとっくの昔に過ぎていた。
「あー、ほら、色々あったんだよっ。色々っ」
言ったら、真咲が恥ずかしそうに僕の後ろに隠れる葵咲ちゃんを見て、「そうみたいだね」って嫌味なくらいいい笑顔でにっこり微笑んだ。
「いやらしい目で僕の彼女を見ないでくれる?」
葵咲ちゃんを隠すように前に立ち塞がったら、彼女が僕の陰になっているのをいいことに、心底呆れた顔をされた。
「池本……キミはどういうつもりで恋人をここに連れてきたの?」
ってそりゃそうだ。
「じっ、自慢しに来たに決まってる!……けど……ジロジロ見るのは禁止」
言ったら、「面倒くさいな」って僕にしか聞こえないくらいの小声でグサっとくることを言ってくれる。
「丸山さん……だっけ? キミもいい人捕まえたよね。ほんと」
含みを多分にはらんだ真咲の言葉に、僕は心臓がギュッと縮こまった。
葵咲ちゃんが何て答えるのか知りたいような……知りたくないような……。
無意識に彼女の指に絡めた手に力がこもる。
「――はい。彼じゃないと私、ダメみたいです」
葵咲ちゃんは僕の指をギュッと握り返してくれると、そう言って真咲をじっと見つめ返した。
今まで恥ずかしそうに僕の背後に隠れていた女の子と同じ女性だなんて思えないぐらい、その横顔は凛としていて。
真咲がそんな葵咲ちゃんを見て、束の間息をのんだのが分かった。
「……やっぱお前、幸せ者だよ」
一瞬だけ隠すように視線を落とし、それからにっこり笑顔を向けてきた真崎を見て、僕は拍子抜けしたと同時に、何となく違和感を覚えてしまう。
そんな真崎を見ていたら、先日一緒に飲んだ時、彼が僕のことを“恵まれすぎている”と言ったことをふと思い出した。
僕はその空気をわざと断ち切るみたいに
「ほら、これ! この前迷惑かけたお詫びとお礼」
言って、真咲の前にグイッと獺祭の入った紙袋を突き出して、
「ついでに今から僕たち、お客さんだから。しっかり商売しろよ?」
真咲は僕から紙袋を受け取りながら、しかたないなというふうに笑って、「どうぞ」と店内に手を向けた。
その顔はすっかり和菓子屋の若店主の顔になっていて――。
僕はほんの少しホッとする。
僕に葵咲ちゃんがいてれるように、真咲にとってもそういう存在が出来たらいい。
ショーケースに並ぶ、色とりどりの繊細な練り切りや透き通ったゼリーなどを嬉しそうに見つめる葵咲ちゃんの横顔を見つめながら、僕はそんなことを願わずにはいられなかった。
僕は――真咲が言うように、葵咲ちゃんに出会えて最高に幸せだから。
End(2020/02/24-2020/05/19)
「ねぇ池本。確か午前中に来るって連絡してこなかった?」
2人でシャワーを浴びて、身支度を整えて。結構急いで家を出たんだけどその時にはすでにあと数分で正午ってところで。
当然着いたらお昼なんてとっくの昔に過ぎていた。
「あー、ほら、色々あったんだよっ。色々っ」
言ったら、真咲が恥ずかしそうに僕の後ろに隠れる葵咲ちゃんを見て、「そうみたいだね」って嫌味なくらいいい笑顔でにっこり微笑んだ。
「いやらしい目で僕の彼女を見ないでくれる?」
葵咲ちゃんを隠すように前に立ち塞がったら、彼女が僕の陰になっているのをいいことに、心底呆れた顔をされた。
「池本……キミはどういうつもりで恋人をここに連れてきたの?」
ってそりゃそうだ。
「じっ、自慢しに来たに決まってる!……けど……ジロジロ見るのは禁止」
言ったら、「面倒くさいな」って僕にしか聞こえないくらいの小声でグサっとくることを言ってくれる。
「丸山さん……だっけ? キミもいい人捕まえたよね。ほんと」
含みを多分にはらんだ真咲の言葉に、僕は心臓がギュッと縮こまった。
葵咲ちゃんが何て答えるのか知りたいような……知りたくないような……。
無意識に彼女の指に絡めた手に力がこもる。
「――はい。彼じゃないと私、ダメみたいです」
葵咲ちゃんは僕の指をギュッと握り返してくれると、そう言って真咲をじっと見つめ返した。
今まで恥ずかしそうに僕の背後に隠れていた女の子と同じ女性だなんて思えないぐらい、その横顔は凛としていて。
真咲がそんな葵咲ちゃんを見て、束の間息をのんだのが分かった。
「……やっぱお前、幸せ者だよ」
一瞬だけ隠すように視線を落とし、それからにっこり笑顔を向けてきた真崎を見て、僕は拍子抜けしたと同時に、何となく違和感を覚えてしまう。
そんな真崎を見ていたら、先日一緒に飲んだ時、彼が僕のことを“恵まれすぎている”と言ったことをふと思い出した。
僕はその空気をわざと断ち切るみたいに
「ほら、これ! この前迷惑かけたお詫びとお礼」
言って、真咲の前にグイッと獺祭の入った紙袋を突き出して、
「ついでに今から僕たち、お客さんだから。しっかり商売しろよ?」
真咲は僕から紙袋を受け取りながら、しかたないなというふうに笑って、「どうぞ」と店内に手を向けた。
その顔はすっかり和菓子屋の若店主の顔になっていて――。
僕はほんの少しホッとする。
僕に葵咲ちゃんがいてれるように、真咲にとってもそういう存在が出来たらいい。
ショーケースに並ぶ、色とりどりの繊細な練り切りや透き通ったゼリーなどを嬉しそうに見つめる葵咲ちゃんの横顔を見つめながら、僕はそんなことを願わずにはいられなかった。
僕は――真咲が言うように、葵咲ちゃんに出会えて最高に幸せだから。
End(2020/02/24-2020/05/19)
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