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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』

女子会2

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***

「いらっしゃい、葵咲きさきちゃん」
 荷物を運んでくださる塚田さんをねぎらったあとで、ひおちゃんのお母様が、私ににっこり微笑みかけてくださる。
 幼い頃の記憶のままに、優しい笑顔を向けられて、私は胸の奥がじぃーんと熱くなる。

「すっかり綺麗なお嬢さんになったね」

 和装姿がこれほど似合う男性を、私は知らない。急ごしらえで着た感じではなく、こなれた感じがあるのが、普段からそれを着付けた人なんだと実感させられて、そういえばひおちゃんのお父様は昔からよく和の装いをしていらしたっけ、と記憶を掘り下げる。
 私が幼い頃はお仕事で家に居られないことが多かったけれど、休日なんかに遊びに行くとたまにお父様にも出会うことがあって、自分の父親とのギャップに驚かされたのを覚えている。

「ご無沙汰しています」
 何となく緊張してペコリと頭を下げたら、クスクスと笑われてしまった。

「あのお転婆な葵咲ちゃんが。感慨深いものだねぇ」
 言われて、私は真っ赤になった。

 そういえばひおちゃんの家の庭の木に登って降りられなくなったの、ひおちゃんのお父様に助けて頂いたんだった。

「小さい頃のことは……その……わ、忘れていただけると嬉しいです」

 そう言ったら、ますます笑われてしまった。

 ひおちゃんのお母さまが「あなた」とたしなめていらして、やっと私はその空気から解放された。

***

「あーん。ひおちゃんのパパさん、記憶力よくてしんどーい」

 ひおちゃんの部屋に入って小声でつぶやいたら、ひおちゃんに笑われてしまった。

日織ひおりさんも……お小さい頃、丸山さんと一緒に木登りなさったりされたのですか?」

 塚田さんがひおちゃんにそう尋ねて、ひおちゃんは「秘密なのです」と答えていた。

「僕の知る限りではそんなタイプには見えませんでしたけど」
 と塚田さんが続けるのを聞いて、私は彼とひおちゃんはどのぐらい前からのお知り合いなんだろう?とふと思った。


***

 夜。
 ひおちゃんのお家で沢山美味しいものをご馳走になって、すごく広いお風呂にひおちゃんと一緒に入った。
 小さい頃にも爆然と思っていたけれど、ひおちゃんのお家は大きな日本家屋で、絶対お金持ちだと思う。

 幼心に、ひおちゃんの喋り方、少し自分たちとはズレたお嬢様然とした感じがするなって感じていたけれど、大人になってひおちゃんに再会して、その思いはさらに一層強くなった。

「私、ひおちゃんとお友達になれたの、奇跡な気がする」

 湯船に浸かりながらほぉっと吐息混じりにそう言ったら、「それはお互い様なのです」と即答された。

「え?」
 びっくりして、すぐ横で湯船に浸かるひおちゃんを見たら、「私、変な子だったので、なかなかお友達ができなかったので……」とモニョモニョされた。

「変な子?」
 思わず問い返すと、「ほら、話し方も変ですし……あと……すぐ妄想の旅に出ちゃうのでっ。ききちゃん以外の皆さんは、気持ち悪がってなかなか仲良くしてくださらなかったのです」と淡く微笑まれた。

「ひおちゃん」
 何だか切なくなって、思わず横からギュッて抱きしめたら、「わわわっ。ききちゃん、おっぱい! 当たってますっ」って何で女同士で慌てるの?って可笑しくなってしまった。

「あ、あのっ、ききちゃん……」
 ひとしきりギューッてしていたら、ややして耳まで真っ赤にしたひおちゃんが、しどろもどろに話し始めて。
 私は「ん?」と彼女から少し離れる。
「ききちゃんは……その……彼氏さんと……えっと……一緒にお風呂に入ったり、したこと……ありますか?」
 いやん、ちょっと待ってひおちゃん、可愛すぎるっ!
 オロオロとした様がすごく可愛くて、私はキュン、としてしまう。
 あー、でもダメ。このまま話してたら上せちゃう。
「ひおちゃん、とりあえずお風呂から上がって話そう?」
 言ったら、「そっ、それもそうですねっ。このままでは倒れてしまいそうなのですっ」って自覚はあったみたい。
 そこがまた可愛くて、私は思わず笑ってしまった。
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