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■僕惚れ④『でもね、嫌なの。わかってよ。』
飲み会1
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「真咲ぃ~。寂しい僕を慰めてぇー!」
葵咲ちゃんが旅立った日。
僕は一人の部屋に帰るのが嫌で、空港から直接友人の営む和菓子屋へ出向いた。
真咲がいたら愚痴ろう。
いなかったら帰ろう。
そう思って出掛けたんだけど、神様は哀れな僕の味方だったらしい。
先日同様、店にはちゃんと真咲の姿があって、僕は心底ホッとする。
「池本? ……いや、俺まだ仕事中だし」
つれない友人に、僕はそれでも食い下がる。
「んー。じゃあどこかで時間潰して待つ。仕事、何時まで?」
とにかく僕はあの家に1人でいたくない。
大学卒業からずっと音信不通だったくせに、近くに気心の知れた友人がいるとたまたま知った途端、僕はその人に頼りたくなってしまう。
普段なら葵咲ちゃんのことで手一杯で、他の人たちのことなんて、頭の端っこにも登ってこないくせに、僕も大概ご都合主義だ。
「全く……用があるなら先に連絡くらいしなよ。俺の状況、知らないわけじゃないだろ」
溜め息混じりに告げられた言葉があまりにもごもっともで、僕は一瞬言葉に詰まった。
真咲、妻帯者だもんね。
僕だって、葵咲ちゃんが家にいる時は飲みに行きたくないっ!
というか仕事が終わったらすぐにでも帰りたい。
帰って彼女をギュッと抱きしめたい。
彼女を放って、夜に出歩くとか、マジで有り得ない!
「奥さんと離れるの嫌だよね。そりゃそうだー。僕だって葵咲ちゃんが家にいたら、絶対飲みになんて出たくないし」
しゅんとしてつぶやいたら、盛大な溜め息をつかれた。
「そんな遅くまでは無理だからな?」
そう言って、19時には行けると思う、と近場の居酒屋を指定してくれた真咲は天使なんじゃないかと、僕は本気で思った。
葵咲ちゃんと名前が似てるだけのことはある。
***
「でね、僕は連れて行ってもらえなかったんだ」
正直な話、交通費なんていくらかかろうと関係なかったし、彼女さえOKを出してくれたなら、僕は仕事なんて投げ出して、地の果てまでだってお供する気だったのに。
ビールをグイッとあおりながらそう言ったら、真咲が「それ、普通に社会人失格だから」と笑ってきて。
「僕は良識ある社会人になりたいわけじゃないんだよ。ただ葵咲ちゃんのそばにいたいだけなんだ……」
日頃葵咲ちゃんには呼び捨てで接しているくせに、心の中の声がダダ漏れて、思わず真咲にも「葵咲ちゃん」と言ってしまう。
もう、それで構わないとか思ってしまう程度には、僕は弱っていたし、酔っ払っていた。
「そもそも今の仕事だって葵咲ちゃんに近付きたくて頑張った結果だし」
言うと、「大学図書館の館長だっけ?」と返されて。
「そう、そこそこに大きな大学だよ。うちの学生、お前んトコの店に買いに来たりしてない? 僕に美味しい和菓子屋があるって教えてくれたのも、実は学生だし」
うちの大学には茶道部がある。
図書館のバイトに入っている茶道部の学生が、担当の先生が変わった関係で、本年度から茶菓子の仕入先が「たちばな庵」に変わったんです、と話してくれたのを覚えている。
その時には屋号「たちばな庵」の「立花」が、真咲の旧姓「二ノ宮」と繋がらなくて、ピンとこなかった。でも、繋がりがあると知ってから考えてみると、真咲の実家も和菓子屋だと聞いたことがあるのを思い出した。もしかしたら、そういうご縁での婿養子だったのかな、とか思う。
嫁取りじゃなく、婿養子……というのが少し引っかかったけど、真咲が話さないことをいちいち勘繰るのも無粋かなと思って、そこは深く追及しないことにした。
葵咲ちゃんが旅立った日。
僕は一人の部屋に帰るのが嫌で、空港から直接友人の営む和菓子屋へ出向いた。
真咲がいたら愚痴ろう。
いなかったら帰ろう。
そう思って出掛けたんだけど、神様は哀れな僕の味方だったらしい。
先日同様、店にはちゃんと真咲の姿があって、僕は心底ホッとする。
「池本? ……いや、俺まだ仕事中だし」
つれない友人に、僕はそれでも食い下がる。
「んー。じゃあどこかで時間潰して待つ。仕事、何時まで?」
とにかく僕はあの家に1人でいたくない。
大学卒業からずっと音信不通だったくせに、近くに気心の知れた友人がいるとたまたま知った途端、僕はその人に頼りたくなってしまう。
普段なら葵咲ちゃんのことで手一杯で、他の人たちのことなんて、頭の端っこにも登ってこないくせに、僕も大概ご都合主義だ。
「全く……用があるなら先に連絡くらいしなよ。俺の状況、知らないわけじゃないだろ」
溜め息混じりに告げられた言葉があまりにもごもっともで、僕は一瞬言葉に詰まった。
真咲、妻帯者だもんね。
僕だって、葵咲ちゃんが家にいる時は飲みに行きたくないっ!
というか仕事が終わったらすぐにでも帰りたい。
帰って彼女をギュッと抱きしめたい。
彼女を放って、夜に出歩くとか、マジで有り得ない!
「奥さんと離れるの嫌だよね。そりゃそうだー。僕だって葵咲ちゃんが家にいたら、絶対飲みになんて出たくないし」
しゅんとしてつぶやいたら、盛大な溜め息をつかれた。
「そんな遅くまでは無理だからな?」
そう言って、19時には行けると思う、と近場の居酒屋を指定してくれた真咲は天使なんじゃないかと、僕は本気で思った。
葵咲ちゃんと名前が似てるだけのことはある。
***
「でね、僕は連れて行ってもらえなかったんだ」
正直な話、交通費なんていくらかかろうと関係なかったし、彼女さえOKを出してくれたなら、僕は仕事なんて投げ出して、地の果てまでだってお供する気だったのに。
ビールをグイッとあおりながらそう言ったら、真咲が「それ、普通に社会人失格だから」と笑ってきて。
「僕は良識ある社会人になりたいわけじゃないんだよ。ただ葵咲ちゃんのそばにいたいだけなんだ……」
日頃葵咲ちゃんには呼び捨てで接しているくせに、心の中の声がダダ漏れて、思わず真咲にも「葵咲ちゃん」と言ってしまう。
もう、それで構わないとか思ってしまう程度には、僕は弱っていたし、酔っ払っていた。
「そもそも今の仕事だって葵咲ちゃんに近付きたくて頑張った結果だし」
言うと、「大学図書館の館長だっけ?」と返されて。
「そう、そこそこに大きな大学だよ。うちの学生、お前んトコの店に買いに来たりしてない? 僕に美味しい和菓子屋があるって教えてくれたのも、実は学生だし」
うちの大学には茶道部がある。
図書館のバイトに入っている茶道部の学生が、担当の先生が変わった関係で、本年度から茶菓子の仕入先が「たちばな庵」に変わったんです、と話してくれたのを覚えている。
その時には屋号「たちばな庵」の「立花」が、真咲の旧姓「二ノ宮」と繋がらなくて、ピンとこなかった。でも、繋がりがあると知ってから考えてみると、真咲の実家も和菓子屋だと聞いたことがあるのを思い出した。もしかしたら、そういうご縁での婿養子だったのかな、とか思う。
嫁取りじゃなく、婿養子……というのが少し引っかかったけど、真咲が話さないことをいちいち勘繰るのも無粋かなと思って、そこは深く追及しないことにした。
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