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■僕惚れ③『家族が増えました』
名前の由来2
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それを確認した理人が「どうぞ」と促すのへ、直人が戸惑いをあらわにする。
困ったように理人を見て、そうして背後の逸樹を振り返った。
その視線を受けて逸樹が口を開く。
「猫、アンタん家で飼うことにしたんだな? それが確認できたら用はねぇよ」
何の前置きもない、単刀直入な物言いに、理人は瞳を見開いた。
(わー、僕も結構イライラしてるけど、この男には負ける)
恐らくは、逸樹も何かに苛ついている。
別に理人も葵咲も逸樹に対して何かをした覚えはないけれど……。
そこまで考えて、理人はふと思い至った。
(あー、もしかして上がれって言ったのが気に入らないのかな?)
お隣さんは、どうやら用件を済ませたらさっさと帰りたいらしい。
「ちょっ……だから、言い方!」
逸樹のつっけんどんな物言いに、直人が慌てたように彼を振り返って、それから理人に向き直って申し訳なさそうに頭を下げる。
「ホント、すみません」
別に直人が悪いわけではないのだが、こうして見ていると、なんだか二人は身内のように見えて。
それも友人とか兄弟とかそういう枠ではなく――。
(――もしかして……恋人?)
理人は眼前の二人が男同士であるにも関わらず、そう思ってしまって、自分で自分の思考に驚いた。
(まぁ、別に僕には関係ないんだけど)
思いながら、自分の腕の中で眠ってしまった子猫を見つめてほうっとひとつ溜め息をつく。
「いや、構いませんよ。じゃあ、ここで手短にこっちの用件だけ。この猫はどういう経緯で?」
聞けば、どうやら直人のバイト先に捨てられていた子猫ということだった。
「ちょっと先の、セレストアってコンビニ、ご存知ないですか? 俺、そこでバイトしてるんですけど……外のゴミ箱前にコイツが箱詰めにされて捨てられてるのを見つけちゃって」
バイト中ではあるし、そもそも自分の住んでいるアパートはペット不可だ。思わず拾い上げてしまったものの、どうしよう?と困っていたところへ、たまたま店に寄った逸樹が連れ帰ってくれたのだと言う。
「逸樹さんち――、あ、この隣なんですけど……は、まぁペット可だから大丈夫かって、そのまま預けちゃったんですけど、……よく考えたら」
そこまで告げて、直人は逸樹を振り返った。
「うちは文鳥を飼ってる。猫はさすがに無理だ」
だったらなんで引き受けた?と思った理人だったけれど、理人も葵咲が困っていたら……と想像したら、恐らく後先考えず、「僕に任せろ!」と言ってしまうな、と思い至って苦笑する。
つまりは――。
(惚れた弱みというやつですね、山端さん)
思わず逸樹にほんの少し親近感の湧いてしまった理人である。
「経緯は分かりました。幸いうちは何も飼っていませんし、僕も葵咲も猫は嫌いじゃありません」
言いながら、「むしろ大好きです!」と子猫の寝顔を見つめてやや興奮気味に心の中で付け加えてから、理人は二人を見据えた。
「なので……この子のことは僕らに任せていただけますか?」
言うと、直人が心底ホッとしたような顔になった。
「ありがとうございます。安心しました。あの――」
そこでひょこっと顔を覗けた葵咲にむかって、直人はペコリと頭を下げる。
「丸山さん、話、済んだんで俺たち帰ります。猫のこと、よろしくお願いします」
そう言ってから「ほら、逸樹さんも」と逸樹にも頭を下げさせると、「じゃあ」と踵を返した。
扉が閉まる寸前、逸樹がドアを押さえてから、葵咲に向かってボソリと「腕、悪かったな」と言った。葵咲は、逸樹からの思わぬ謝罪に瞳を見開いて固まってしまった。
二人が帰ってから、理人はずっと抱いたままだった子猫をリビングの箱の中にそっと戻すと、台所の葵咲へ声をかける。
「葵咲、セレの名前の由来、分かったよ」
彼女に歩み寄りながら言って、意地悪く微笑む。
そうして次の瞬間、真顔になると、
「ところで――さっきの山端さんの謝罪、なに?」
葵咲の手首を捕まえて、そう問いかけた。
困ったように理人を見て、そうして背後の逸樹を振り返った。
その視線を受けて逸樹が口を開く。
「猫、アンタん家で飼うことにしたんだな? それが確認できたら用はねぇよ」
何の前置きもない、単刀直入な物言いに、理人は瞳を見開いた。
(わー、僕も結構イライラしてるけど、この男には負ける)
恐らくは、逸樹も何かに苛ついている。
別に理人も葵咲も逸樹に対して何かをした覚えはないけれど……。
そこまで考えて、理人はふと思い至った。
(あー、もしかして上がれって言ったのが気に入らないのかな?)
お隣さんは、どうやら用件を済ませたらさっさと帰りたいらしい。
「ちょっ……だから、言い方!」
逸樹のつっけんどんな物言いに、直人が慌てたように彼を振り返って、それから理人に向き直って申し訳なさそうに頭を下げる。
「ホント、すみません」
別に直人が悪いわけではないのだが、こうして見ていると、なんだか二人は身内のように見えて。
それも友人とか兄弟とかそういう枠ではなく――。
(――もしかして……恋人?)
理人は眼前の二人が男同士であるにも関わらず、そう思ってしまって、自分で自分の思考に驚いた。
(まぁ、別に僕には関係ないんだけど)
思いながら、自分の腕の中で眠ってしまった子猫を見つめてほうっとひとつ溜め息をつく。
「いや、構いませんよ。じゃあ、ここで手短にこっちの用件だけ。この猫はどういう経緯で?」
聞けば、どうやら直人のバイト先に捨てられていた子猫ということだった。
「ちょっと先の、セレストアってコンビニ、ご存知ないですか? 俺、そこでバイトしてるんですけど……外のゴミ箱前にコイツが箱詰めにされて捨てられてるのを見つけちゃって」
バイト中ではあるし、そもそも自分の住んでいるアパートはペット不可だ。思わず拾い上げてしまったものの、どうしよう?と困っていたところへ、たまたま店に寄った逸樹が連れ帰ってくれたのだと言う。
「逸樹さんち――、あ、この隣なんですけど……は、まぁペット可だから大丈夫かって、そのまま預けちゃったんですけど、……よく考えたら」
そこまで告げて、直人は逸樹を振り返った。
「うちは文鳥を飼ってる。猫はさすがに無理だ」
だったらなんで引き受けた?と思った理人だったけれど、理人も葵咲が困っていたら……と想像したら、恐らく後先考えず、「僕に任せろ!」と言ってしまうな、と思い至って苦笑する。
つまりは――。
(惚れた弱みというやつですね、山端さん)
思わず逸樹にほんの少し親近感の湧いてしまった理人である。
「経緯は分かりました。幸いうちは何も飼っていませんし、僕も葵咲も猫は嫌いじゃありません」
言いながら、「むしろ大好きです!」と子猫の寝顔を見つめてやや興奮気味に心の中で付け加えてから、理人は二人を見据えた。
「なので……この子のことは僕らに任せていただけますか?」
言うと、直人が心底ホッとしたような顔になった。
「ありがとうございます。安心しました。あの――」
そこでひょこっと顔を覗けた葵咲にむかって、直人はペコリと頭を下げる。
「丸山さん、話、済んだんで俺たち帰ります。猫のこと、よろしくお願いします」
そう言ってから「ほら、逸樹さんも」と逸樹にも頭を下げさせると、「じゃあ」と踵を返した。
扉が閉まる寸前、逸樹がドアを押さえてから、葵咲に向かってボソリと「腕、悪かったな」と言った。葵咲は、逸樹からの思わぬ謝罪に瞳を見開いて固まってしまった。
二人が帰ってから、理人はずっと抱いたままだった子猫をリビングの箱の中にそっと戻すと、台所の葵咲へ声をかける。
「葵咲、セレの名前の由来、分かったよ」
彼女に歩み寄りながら言って、意地悪く微笑む。
そうして次の瞬間、真顔になると、
「ところで――さっきの山端さんの謝罪、なに?」
葵咲の手首を捕まえて、そう問いかけた。
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