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■僕惚れ③『家族が増えました』
出会いは唐突に3
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「直、人……なんで……」
葵咲に手を差し伸べてくれている青年に向かって、逸樹が眉根を寄せて「……バイトは?」と問いかける。
逸樹から直人と呼ばれた青年は、葵咲の眼前でヘルメットを脱ぐと、あご紐を引っ掛けるようにして手に持った。下から見上げた直人は、彼の横に立つ逸樹よりはほんの少し小柄な印象だったけれど、一五〇センチ半ばの葵咲から見れば十分長身な部類に入る。
色素の少し薄い暗茶の髪の毛がふわふわで、逸樹と違って険のなさそうな印象の、優しそうな青年だな、と思った。
間違っても、直人は逸樹のように強引に葵咲をどこかへ連れて行こうとはしないだろう。
そのイメージに違わず、葵咲に「怪我はないですか?」と心底心配そうな顔をして声を掛けかけてきた直人は、けれどもその一方で逸樹を完全に無視していて。
「……あ、だ、大丈夫です」
直人に助けられながら立ち上がった葵咲は、期せずして逸樹と直人の間に立ってしまった。二人に挟まれて、何だかとっても落ち着かない。
葵咲が、あまりにピリピリした空気――主に発生源は逸樹だけれど――に、
(早く部屋に戻ってレポートしたいよぅ……)
とか思ってしまったのも仕方ないだろう。
葵咲はソワソワとした居心地の悪さの中、スカートについた汚れをはたき落としてから、直人に差し出された鞄を受け取る。
「……ありがとう」
直人に礼を言って、ちらりと逸樹のほうを見やると、彼は至極情けない顔で直人の様子をうかがっていて。
「あの……」
あまりにも逸樹がしゅんとしていたので、お節介とは思いつつも葵咲は直人に、視線で逸樹を気遣ってあげてほしいと意思表示をしてみた。
直人はそんな葵咲に無言でうなずくと、はぁっとひとつ、溜め息をつきながら逸樹に向き直った。
「逸樹さんに押し付けるみたいになっちゃったから心配できてみたんだけど……正解だったね」
そこまで言って、直人は逸樹の様子を確認するように言葉を止める。
逸樹はそんな直人を見て、何か言いたげに一度口を開きかけたけれど、結局は何も言えなかったみたいで。
「……ホント、なにやってんの」
いきなり女の子の手を掴むとか、マジないから……と、ちらりと横に立つ葵咲を気遣わしげに見遣ってから、なにも言わない逸樹に対して、もう一度吐息を漏らした。
葵咲に手を差し伸べてくれている青年に向かって、逸樹が眉根を寄せて「……バイトは?」と問いかける。
逸樹から直人と呼ばれた青年は、葵咲の眼前でヘルメットを脱ぐと、あご紐を引っ掛けるようにして手に持った。下から見上げた直人は、彼の横に立つ逸樹よりはほんの少し小柄な印象だったけれど、一五〇センチ半ばの葵咲から見れば十分長身な部類に入る。
色素の少し薄い暗茶の髪の毛がふわふわで、逸樹と違って険のなさそうな印象の、優しそうな青年だな、と思った。
間違っても、直人は逸樹のように強引に葵咲をどこかへ連れて行こうとはしないだろう。
そのイメージに違わず、葵咲に「怪我はないですか?」と心底心配そうな顔をして声を掛けかけてきた直人は、けれどもその一方で逸樹を完全に無視していて。
「……あ、だ、大丈夫です」
直人に助けられながら立ち上がった葵咲は、期せずして逸樹と直人の間に立ってしまった。二人に挟まれて、何だかとっても落ち着かない。
葵咲が、あまりにピリピリした空気――主に発生源は逸樹だけれど――に、
(早く部屋に戻ってレポートしたいよぅ……)
とか思ってしまったのも仕方ないだろう。
葵咲はソワソワとした居心地の悪さの中、スカートについた汚れをはたき落としてから、直人に差し出された鞄を受け取る。
「……ありがとう」
直人に礼を言って、ちらりと逸樹のほうを見やると、彼は至極情けない顔で直人の様子をうかがっていて。
「あの……」
あまりにも逸樹がしゅんとしていたので、お節介とは思いつつも葵咲は直人に、視線で逸樹を気遣ってあげてほしいと意思表示をしてみた。
直人はそんな葵咲に無言でうなずくと、はぁっとひとつ、溜め息をつきながら逸樹に向き直った。
「逸樹さんに押し付けるみたいになっちゃったから心配できてみたんだけど……正解だったね」
そこまで言って、直人は逸樹の様子を確認するように言葉を止める。
逸樹はそんな直人を見て、何か言いたげに一度口を開きかけたけれど、結局は何も言えなかったみたいで。
「……ホント、なにやってんの」
いきなり女の子の手を掴むとか、マジないから……と、ちらりと横に立つ葵咲を気遣わしげに見遣ってから、なにも言わない逸樹に対して、もう一度吐息を漏らした。
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