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■僕惚れ③『家族が増えました』
出会いは唐突に2
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出来れば視線が絡んだことは水に流してもらえますように。
そう思った葵咲の願いも虚しく、その男は葵咲が後ずさった以上の距離を一気に詰めてきて――。
「――おい、アンタ」
不機嫌そうな声音で声をかけられた葵咲は、
「わわわわ、ごめんなさいっ! 私っ、こっ、こっ、婚約者がいるんですっ! 食べてもきっと、美味しくありません!」
言って、身体を守るように丸まって地べたに座り込んだ。すると、上から「はぁっ?」という心外そうな声が降ってくる。
「……俺だって恋人いんだけど?」
次いでため息まじりに告げられたその声に、恐る恐る視線をあげると、
「なぁ、アンタ、まさか俺が誰だか気付いてないわけ?」
なんだよ、分かって見てきてたんじゃねぇのかよ、と半ば呆れたように付け加えられてしまう。
「え? 誰だか……って……」
そこでようやくノソノソと立ち上がって眼前の男の顔をじっと覗き見た葵咲は、ハッとして息を呑む。
「あっ! ――お隣さんっ!」
よく見れば、理人よりほんの少し背の高いその男は、マンションの隣室の住人――山端逸樹――だった。
「や、山……端……さん、でしたっけ?」
「ああ……。やっと思い出したか」
逸樹は葵咲を、半ば呆れたように冷ややかな目で見下ろすと、「アンタは…….丸山葵咲だったか」と、こともなげに葵咲のフルネームを言う。
チャラそうに見えて、案外頭がいいのかも?と感心していたら「――で、今日は一緒じゃねえの?」と聞かれて。
「え?」
何を言われているのか分からずキョトンとしたら、「ほら、その婚約者の男。池本理人だっけか」と返る。
どうやら逸樹は、葵咲だけでなく理人のフルネームも覚えているらしい。
そのことに感心して彼を見つめると「そういうの覚えんの、仕事にも役立つし割と得意なんだよ」と不機嫌そうな表情で見下ろされた。
「――い、イヤッ!」
なんの前触れもなく強引に手を取られて驚いた葵咲が、足を踏ん張って思いっきり抵抗をしたら、「取って食おうってわけじゃねぇよ。いいから黙ってついて来いって!」とか、どれだけ横暴なんだろう。
どうあっても力では敵いそうにない相手なだけに、こんなふうに無理矢理こられたら葵咲にはなす術がない。あまりの怖さに、葵咲は涙目になってしまった。
と、突然背後からバイクのエンジン音と、急ブレーキをかける音が聞こえてきて。
ついで「ちょっ、逸樹さん! 何やってんだよ!」という若い男性の声がした。
その途端、今まで葵咲の腕を痛いくらい掴んで離さなかった逸樹の手が、ビクッとなって呆気なく離れる。
思いっきり抵抗をしていたこともあって、その反動で盛大な尻餅をついてしまった葵咲に、「すみませんっ! 大丈夫ですか?」と慌てた声がかかる。
地べたにへたり込んだまま、葵咲が声のした方へ視線を向けると、ヘルメットを被ったままの青年が駆け寄ってくるところだった。
彼の登場と同時に、あれほど傍若無人で、まるで俺様が作業服を着て歩いているような印象だった逸樹が、借りてきた猫のように大人しくなってしまった。
それが、葵咲には不思議で堪らない。
(この青年は一体何者なんだろう?)
逸樹のことを下の名前で呼ぶような、親しい間柄の人物のようではあるけれど、それ以上の何かがあるようにも思えて、葵咲はお尻を地面に打ち付けた痛みも忘れて、二人を交互に見比べた。
そう思った葵咲の願いも虚しく、その男は葵咲が後ずさった以上の距離を一気に詰めてきて――。
「――おい、アンタ」
不機嫌そうな声音で声をかけられた葵咲は、
「わわわわ、ごめんなさいっ! 私っ、こっ、こっ、婚約者がいるんですっ! 食べてもきっと、美味しくありません!」
言って、身体を守るように丸まって地べたに座り込んだ。すると、上から「はぁっ?」という心外そうな声が降ってくる。
「……俺だって恋人いんだけど?」
次いでため息まじりに告げられたその声に、恐る恐る視線をあげると、
「なぁ、アンタ、まさか俺が誰だか気付いてないわけ?」
なんだよ、分かって見てきてたんじゃねぇのかよ、と半ば呆れたように付け加えられてしまう。
「え? 誰だか……って……」
そこでようやくノソノソと立ち上がって眼前の男の顔をじっと覗き見た葵咲は、ハッとして息を呑む。
「あっ! ――お隣さんっ!」
よく見れば、理人よりほんの少し背の高いその男は、マンションの隣室の住人――山端逸樹――だった。
「や、山……端……さん、でしたっけ?」
「ああ……。やっと思い出したか」
逸樹は葵咲を、半ば呆れたように冷ややかな目で見下ろすと、「アンタは…….丸山葵咲だったか」と、こともなげに葵咲のフルネームを言う。
チャラそうに見えて、案外頭がいいのかも?と感心していたら「――で、今日は一緒じゃねえの?」と聞かれて。
「え?」
何を言われているのか分からずキョトンとしたら、「ほら、その婚約者の男。池本理人だっけか」と返る。
どうやら逸樹は、葵咲だけでなく理人のフルネームも覚えているらしい。
そのことに感心して彼を見つめると「そういうの覚えんの、仕事にも役立つし割と得意なんだよ」と不機嫌そうな表情で見下ろされた。
「――い、イヤッ!」
なんの前触れもなく強引に手を取られて驚いた葵咲が、足を踏ん張って思いっきり抵抗をしたら、「取って食おうってわけじゃねぇよ。いいから黙ってついて来いって!」とか、どれだけ横暴なんだろう。
どうあっても力では敵いそうにない相手なだけに、こんなふうに無理矢理こられたら葵咲にはなす術がない。あまりの怖さに、葵咲は涙目になってしまった。
と、突然背後からバイクのエンジン音と、急ブレーキをかける音が聞こえてきて。
ついで「ちょっ、逸樹さん! 何やってんだよ!」という若い男性の声がした。
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それが、葵咲には不思議で堪らない。
(この青年は一体何者なんだろう?)
逸樹のことを下の名前で呼ぶような、親しい間柄の人物のようではあるけれど、それ以上の何かがあるようにも思えて、葵咲はお尻を地面に打ち付けた痛みも忘れて、二人を交互に見比べた。
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