84 / 324
■僕惚れ②『温泉へ行こう!』
ハプニング1
しおりを挟む
迂闊、だった……。
同じフロアにあるし、大丈夫だよねと思って一人で出てきたけれど、実は私は結構な方向音痴で――。
この旅館は一階だけでも四棟の宿泊棟と、本館の大浴場、売店スペース、果ては宴会場などに枝分かれしていて、私たちが泊まっている露天風呂付の客室はその中でも結構奥まった場所に位置していた。
理人と一緒に歩いたときには何とも思わなかったけれど、立地によっては数段の階段を上がり下りしたり、スロープ状の通路を歩いたりしなくてはいけない。
棟の境目にはそれと分かる継ぎ目が残っていて、床や天井の様相がそこを境に変化する。
そういうところを進む方向の確信もないままにウロウロしているうちに、私はすっかり迷子になってしまった。
天井や壁面に設置された標識や館内案内図を見ても、大まかな現在地しか把握できなくて……。
いったい自分がどう動けば売店に向かえるのか……はたまたどちらに進めば元居た部屋に戻れるのか、さっぱり分からなくなってしまった。
恥ずかしいけれど理人にSOSを出すしかないのかも。
そこまで考えて、でも……と思う。
彼の性格を考えると、目覚めていて連絡をよこさないことは考えられなかった。未だ何のリアクションもないと言うことは、理人はまだ眠っている可能性が高い。
だとしたら起こすの、申し訳ないな。
あれこれ考えて、スマホを手に立ち尽くしていたら、突然後ろから呼びかけられた。
「……丸山?」
不安で堪らなかったところに聞きなれた声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、正木くんが立っていた。
知人に出会えたという安心感で気が緩んだ私は、へなへなと脱力してその場にへたり込んでしまう。
「えっ、ちょっとどうしたんだよ!? 大丈夫か?」
いきなり座り込んでしまった私に、正木くんが心配して駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……。ちょっと正木くんの顔見たらホッとしちゃって……」
地べたに這いつくばったまま彼のほうを見上げてそう答えると、期せずして瞳から、涙がポロリと零れ落ちた。
「……え? ……あ、あれ?」
びっくりしてしまった。
泣くつもりなんて微塵もなかったし、こんなところでいきなり泣かれても彼も困るだろう。
急いでごしごしと涙を拭ったけれど、一度堰を切ったそれはなかなか止まってくれなくて。
「とりあえず、こっちに」
正木くんは通路の壁に縋るようにして崩れ落ちた私の手を引いて立ち上がらせてくれると、少し奥まった死角に連れて行ってくれた。
さすがにあのままは誰か通りかかったら目立つし、私が恥ずかしい思いをすると気を遣ってくれたんだろう。
壁を背にして何とか立つ私を隠すように、正木くんが前に立ちはだかってくれる。
「ごめんね」
ややして落ち着きを取り戻すと、私は彼に謝罪の言葉を述べる。
「いや、それはいいんだけど……丸山、一人でどうしたんだよ?」
正木くんは仁王立ちで私をじっと見据えてから、探るように付け加える。
「――彼氏は?」
「え?」
「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」
丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。
同じフロアにあるし、大丈夫だよねと思って一人で出てきたけれど、実は私は結構な方向音痴で――。
この旅館は一階だけでも四棟の宿泊棟と、本館の大浴場、売店スペース、果ては宴会場などに枝分かれしていて、私たちが泊まっている露天風呂付の客室はその中でも結構奥まった場所に位置していた。
理人と一緒に歩いたときには何とも思わなかったけれど、立地によっては数段の階段を上がり下りしたり、スロープ状の通路を歩いたりしなくてはいけない。
棟の境目にはそれと分かる継ぎ目が残っていて、床や天井の様相がそこを境に変化する。
そういうところを進む方向の確信もないままにウロウロしているうちに、私はすっかり迷子になってしまった。
天井や壁面に設置された標識や館内案内図を見ても、大まかな現在地しか把握できなくて……。
いったい自分がどう動けば売店に向かえるのか……はたまたどちらに進めば元居た部屋に戻れるのか、さっぱり分からなくなってしまった。
恥ずかしいけれど理人にSOSを出すしかないのかも。
そこまで考えて、でも……と思う。
彼の性格を考えると、目覚めていて連絡をよこさないことは考えられなかった。未だ何のリアクションもないと言うことは、理人はまだ眠っている可能性が高い。
だとしたら起こすの、申し訳ないな。
あれこれ考えて、スマホを手に立ち尽くしていたら、突然後ろから呼びかけられた。
「……丸山?」
不安で堪らなかったところに聞きなれた声が聞こえて、ゆっくり振り返ると、正木くんが立っていた。
知人に出会えたという安心感で気が緩んだ私は、へなへなと脱力してその場にへたり込んでしまう。
「えっ、ちょっとどうしたんだよ!? 大丈夫か?」
いきなり座り込んでしまった私に、正木くんが心配して駆け寄ってくる。
「ご、ごめんなさい……。ちょっと正木くんの顔見たらホッとしちゃって……」
地べたに這いつくばったまま彼のほうを見上げてそう答えると、期せずして瞳から、涙がポロリと零れ落ちた。
「……え? ……あ、あれ?」
びっくりしてしまった。
泣くつもりなんて微塵もなかったし、こんなところでいきなり泣かれても彼も困るだろう。
急いでごしごしと涙を拭ったけれど、一度堰を切ったそれはなかなか止まってくれなくて。
「とりあえず、こっちに」
正木くんは通路の壁に縋るようにして崩れ落ちた私の手を引いて立ち上がらせてくれると、少し奥まった死角に連れて行ってくれた。
さすがにあのままは誰か通りかかったら目立つし、私が恥ずかしい思いをすると気を遣ってくれたんだろう。
壁を背にして何とか立つ私を隠すように、正木くんが前に立ちはだかってくれる。
「ごめんね」
ややして落ち着きを取り戻すと、私は彼に謝罪の言葉を述べる。
「いや、それはいいんだけど……丸山、一人でどうしたんだよ?」
正木くんは仁王立ちで私をじっと見据えてから、探るように付け加える。
「――彼氏は?」
「え?」
「だから、池本さんだっけ? あの人はどうしたの?」
丸山一人で行動してるとか有り得ねぇだろ、と言われた。
0
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる