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■僕惚れ②『温泉へ行こう!』

*ちゃんと私を感じて欲しい7

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葵咲きさき、愛してる」

 理人りひとが、うわ言のように彼の名を呼び続けている、私の左手にそっと口付けながら、言う。
 私も、それに気が付いて理人の左手に口付ける。

 左手、と言うより指輪に――。

 今になって、指輪に彼との繋がりをひしひしと感じてしまったから。

 理人と、指輪を通して1つになれているような……うまく言えないけれどそんな感覚。


 と、理人の動きが深く激しくなって。私も最奥さいおく穿うがたれる刺激に、突き上げられている奥の辺りから、何かが湧き上がってくるのを感じた。
 その吹き上がってきた液体が、2人が交わった部分を熱く濡らすのが分かった。

 それは初めての感覚で――。「え? 何?」と思っていたら、
「葵咲、感じてくれたんだね……」

 理人が、肩に担いだ私の足に口付けながら、うっとりと呟いた。

 未だ羽織ったままで、結局最後まで脱ぐことのなかった私の浴衣の後ろ身頃は、私から溢れ出た体液でしとどに濡れそぼっていた。

 なんか、冷たい……。
 さらさらとしたそれは、すぐに冷えて冷たさを訴えてくる。

 そのときには自分でも何が起こったのか分からなくて……お漏らししてしまったのかも、とか恥ずかしく思ったけれど、理人は私のその状態に気が付くと、酷く嬉しそうにしていた。
 私はというと、自分の身に何が起こったのか分からなくて、戸惑うばかり……。
 とりあえず理人に引かれたりしていないみたいで良かった、と心の底から安堵あんどしたことだけは確かで――。

「お風呂行こうか」
 私のその状態に気が付いた理人が、腕から浴衣を抜き取って私を裸にすると、濡れていないところに座らせてくれる。
 私の濡れた浴衣の代わりに、自分が着ていたそれを持ってきて羽織らせてくれると、自分は手近にあったタオルで前を隠した。

 その状態で彼に手を引かれて、またしてもお風呂に逆戻り。

 お風呂場に入る前に、理人が指輪を外してくれた。
「変色したらいけないからね」
 っていう言葉とともに。

 私は余りにも感じすぎたためか、全身が倦怠感けんたいかんに包まれていて……理人のそういう細やかな気遣いにとても助けられた。
 多分、理人が気付かなかったら私、そのままお風呂に入って後悔する羽目になっていたと思う。

 理人は私の気怠けだるい状態を敏感に感じ取って、その後は執拗しつようには求めてこなかった。
 理人自身はまだ結構元気なことは、くっ付いた時に感じたけれど、だからと言って彼は何もしようとはしてこなくて――。
 理人のそういう紳士的な気遣いが、私にますます彼を愛しいと思わせる。


 一緒に湯船に浸かりながら、少し落ち着いたところで、「理人、さっきの私……その……変、じゃなかった?」と恐る恐る聞いてみた。
「……?」
 そんな私に、理人はきょとんとするばかり。

「あ、あのね……私が着てた浴衣、びしょびしょになっちゃった……から」
 理人が分からないみたいだったので、もう少しだけ踏み込んだ聞き方をしてみる。
 と、彼もさすがに察してくれたみたいで。

「まさか葵咲、気にしていたの? あんなふうに濡れるのは、全然変じゃないし、むしろ僕はキミがあんなふうになってくれて、嬉しかったよ」
 にこやかに笑う。

 理人が変じゃない、と言ってくれただけで……どうしてこんなにも心が穏やかになるんだろう。
「……よかった」
 私はホッと溜息ためいきをつくようにそう言うと、情けないことにウトウトとまどろみの底に沈んでいった。

 理人が、そんな私の髪の毛を、ずっと優しく撫でてくれていて――。

 それさえも心地よくて、理人にもたれかかる様にして、私は束の間、意識を手放した。
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