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■僕惚れ②『温泉へ行こう!』
嫉妬1
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案の定というべきか。
理人は二人きりになれてからも、ずっと無言で。それでも私の手だけはまるで逃がさない、とでも言いたげにギュッと握ったまま歩き続けた。
片腕に自分の荷物だけでなく、私の荷物まで持ってくれている理人は、それでも私より歩くのが早くて……。
手を引かれるままに、私は小走りで彼について行くのが精一杯だった。
「理、人……?」
その沈黙がいたたまれなくて、私は息を切らして走りながらも恐る恐る彼に声をかける。
でも、無視されてしまった。
目的地のレンタカー屋さんは駅を出てすぐの所で、そんなに距離がなかったから何とかついて行けたけれど、もう少し距離があったら私は立ち止まってしまっていたかもしれない。
息を整えながら、事務所で手続きをする理人を所在無く見つめる。
彼が手配していたのは、いつも運転している愛車と同じ、トールタイプの軽ワゴン車――Nボックス――で。
手続きを終えた理人は、その車の助手席に私を押し込むように乗せると、荷物を後部座席に積み込んで、無言でエンジンをかける。
「――理人、怒ってるの?」
理人はとても整った顔立ちをしている。私の前ではいつも割とデレデレしていて失念しかけていたけれど、こうして無言で無表情な顔をされると、そのことを痛感させられる。
すごくカッコイイと思うけれど、今の理人は何だか怖くて近寄り難い。
いつの頃からか、男性らしく筋肉もついて肩幅も張った理人。背もどんどん高くなった。
180センチ近い彼の横に並ぶと、156センチしかない私は、気がつけばいつも彼を見上げるように見つめるようになっていた。
理人はその視線に気がつくと、いつもほんの少し顔を下向けて、私を優しく見つめ返してくれる。
それがくすぐったくて心地よくて……私は彼に愛されていることを実感できる。
でも、今は違う。
さっきから目を合わせてくれない彼に、心細くて泣きたくなった。
私は思わず手を伸ばすと、無言でハンドルを握る理人の腕にそっと触れる。
その瞬間、理人の身体がピクリと震えた。でも反応はそれだけで。こちらを見ようともしてくれなかった。
私は悲しくなって、彼に伸ばした手をおずおずと引っ込める。
居た堪れない気持ちのまま、窓外に視線を転じると、膝の上に載せた手にギュッと力を込める。
スカートのプリーツがしわになってしまうかもしれないけれど、そんなことも気にならないくらい、悲しかった。
どのくらいそんな気詰まりするような時間が流れただろう。
いつの間にか、車は人気の殆んどない山の中に入っていた。
私が立てた観光プランの中には、そんな山奥の施設はなかったはずだ。
(どこに向かっているの?)
問いかけたいけれど、また無視されたらと思うと怖くて、私は何も聞けなかった。
と、少し開けたスペースで、何の前触れもなく停車する。
辺りを見回しても、何も見られそうなところはなさそうで――。
「葵咲降りて」
不安になって理人の方を見つめたら、彼はシートベルトを外して車から降りながら私にそう言った。
何が何だか分からないままに言われた通りシートベルトを外していたら、理人が助手席のドアを開けた。その気配に彼の方を見上げたら、怖い顔をした彼に、性急に車の外へ引っ張り出されてしまう。
そのままギュッと手を掴まれたまま、半ば強引に私の手を引いて歩き始める理人。
「理人っ、どこに――」
行くの?と問いかけようとしたら、急に立ち止まった彼に強く抱き寄せられた。そうして言葉ごと飲み込むように唇を塞がれる。
「……んっ」
息継ぎも出来ないような激しいキスに、私はただただ翻弄された。
理人は二人きりになれてからも、ずっと無言で。それでも私の手だけはまるで逃がさない、とでも言いたげにギュッと握ったまま歩き続けた。
片腕に自分の荷物だけでなく、私の荷物まで持ってくれている理人は、それでも私より歩くのが早くて……。
手を引かれるままに、私は小走りで彼について行くのが精一杯だった。
「理、人……?」
その沈黙がいたたまれなくて、私は息を切らして走りながらも恐る恐る彼に声をかける。
でも、無視されてしまった。
目的地のレンタカー屋さんは駅を出てすぐの所で、そんなに距離がなかったから何とかついて行けたけれど、もう少し距離があったら私は立ち止まってしまっていたかもしれない。
息を整えながら、事務所で手続きをする理人を所在無く見つめる。
彼が手配していたのは、いつも運転している愛車と同じ、トールタイプの軽ワゴン車――Nボックス――で。
手続きを終えた理人は、その車の助手席に私を押し込むように乗せると、荷物を後部座席に積み込んで、無言でエンジンをかける。
「――理人、怒ってるの?」
理人はとても整った顔立ちをしている。私の前ではいつも割とデレデレしていて失念しかけていたけれど、こうして無言で無表情な顔をされると、そのことを痛感させられる。
すごくカッコイイと思うけれど、今の理人は何だか怖くて近寄り難い。
いつの頃からか、男性らしく筋肉もついて肩幅も張った理人。背もどんどん高くなった。
180センチ近い彼の横に並ぶと、156センチしかない私は、気がつけばいつも彼を見上げるように見つめるようになっていた。
理人はその視線に気がつくと、いつもほんの少し顔を下向けて、私を優しく見つめ返してくれる。
それがくすぐったくて心地よくて……私は彼に愛されていることを実感できる。
でも、今は違う。
さっきから目を合わせてくれない彼に、心細くて泣きたくなった。
私は思わず手を伸ばすと、無言でハンドルを握る理人の腕にそっと触れる。
その瞬間、理人の身体がピクリと震えた。でも反応はそれだけで。こちらを見ようともしてくれなかった。
私は悲しくなって、彼に伸ばした手をおずおずと引っ込める。
居た堪れない気持ちのまま、窓外に視線を転じると、膝の上に載せた手にギュッと力を込める。
スカートのプリーツがしわになってしまうかもしれないけれど、そんなことも気にならないくらい、悲しかった。
どのくらいそんな気詰まりするような時間が流れただろう。
いつの間にか、車は人気の殆んどない山の中に入っていた。
私が立てた観光プランの中には、そんな山奥の施設はなかったはずだ。
(どこに向かっているの?)
問いかけたいけれど、また無視されたらと思うと怖くて、私は何も聞けなかった。
と、少し開けたスペースで、何の前触れもなく停車する。
辺りを見回しても、何も見られそうなところはなさそうで――。
「葵咲降りて」
不安になって理人の方を見つめたら、彼はシートベルトを外して車から降りながら私にそう言った。
何が何だか分からないままに言われた通りシートベルトを外していたら、理人が助手席のドアを開けた。その気配に彼の方を見上げたら、怖い顔をした彼に、性急に車の外へ引っ張り出されてしまう。
そのままギュッと手を掴まれたまま、半ば強引に私の手を引いて歩き始める理人。
「理人っ、どこに――」
行くの?と問いかけようとしたら、急に立ち止まった彼に強く抱き寄せられた。そうして言葉ごと飲み込むように唇を塞がれる。
「……んっ」
息継ぎも出来ないような激しいキスに、私はただただ翻弄された。
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