51 / 324
■僕惚れ②『温泉へ行こう!』
葵咲の同級生1
しおりを挟む
新幹線は指定席を取っていたので、座れないという心配もなく、私たちはのんびりした気分で予約した席に向かった。
理人に、荷物を棚に上げてもらっていたら、突然前に座っていた若い男性から声をかけられた。
「――もしかして、丸山さん?」
見れば、高校時代クラスメイトだった正木くんで。
「わ、正木くん!?」
懐かしさに思わず声が弾んでしまってから、しまった、と思う。
案の定、理人がすかさず私の後ろに立って、「どなた?」なんてわざとらしく聞いてきた。
「高校生の頃のクラスメイトの正木くん。正木くん、こちらは――」
私が紹介するより先に、理人がずいっと私の前に出る。
「はじめまして。池本理人です。葵咲――あ、丸山さんとお付き合いさせていただいています」
わざとらしく一度、葵咲、と呼んでから丸山さん、と言い直したように聞こえた。
いつもスーツ姿の理人は、今日は白のサマーニットに、黒のスキニーというラフな格好で、実際の年齢より幾分若く見える印象だった。だからかな。
Tシャツにジーンズといういでたちの正木くんが、値踏みするように理人を見てから、
「あ、丸山の彼氏さんでしたか。俺は正木徹です。彼女とは出席番号が近かったご縁で学生時代、かなり仲良くしていただいてました」
わざと丸山、と私を呼び捨てにして、ことさら仲がよかったとか強調したように感じた。そういう子供っぽい反応が、何だか理人といい勝負で。
私は双方の口ぶりに、ぴりぴりとした緊張感を覚えてしまって、何だかソワソワと落ち着かない。
その空気を何とかしたくて、「正木くん、今日はどうしたの?」と聞けば、お盆間、おじいさんとおばあさんがやっておられる商売の手伝いに行くことになっている、と。
「結構人が来るからさ。バイトがてら俺も借り出されちゃって」
ここ数年はお盆の恒例行事なんだ、と言って、彼は苦笑した。
「大変ですね。僕たちは今から二人で旅行なんです」
にこやかに理人が言う。“二人で”というところを強調して。何だか少し自慢が入っているような?
結局、席が向かい合わせだったこともあって、一時間余りの新幹線の道行きの間中、そんな男性陣に挟まれて、私は少しも気持ちが休まらなかった。
表面上はふたりとも仲良く会話してくれているんだけど……。
こんなことなら理人とドライブを楽しんだほうが良かったのかも。
そんな風に思った。
***
どうやら正木くんも私たちと同じ駅で降りるらしい。
それを聞いた瞬間の理人の顔を思い出すと、測らず溜息がこぼれる。
(機嫌、悪そうだなぁ)
始終ニコニコと笑顔だけど、それ自体が常態ではない。
(絶対物凄く機嫌が悪い……)
理人の横顔を見て、私は何度目になるか分からない密かな吐息を漏らした。
「葵咲、元気ないけど大丈夫? 気分悪かったりする?」
そんな中でも、理人は私の変化にはとても敏感で。
「ううん。そういうわけじゃないの。新幹線に乗るの、久しぶりだったからちょっと疲れちゃっただけ……」
実際はこの空気が耐えられなくてのことなんだけど、二人が笑顔で取り繕っている以上、私が敢えて指摘するのもおかしいかなって思った。
「……少し眠る?」
到着までまだあと30分くらいかかるし。
理人がスマホの時刻を確認しながら言う。
「おいで」
うん、とも眠る、とも答えていないのに、彼は半ば強引に私の頭を自分の肩に持たせかけるように傾けさせた。
(う……。なんか恥ずかしい……)
目の前に同級生がいて……甘えたみたいなこの姿を見られているんだと思うと恥ずかしくて堪らない。
でも、もし今、身体を起こしたりなんかしたら、理人の厚意を踏みにじることになる。
自分の羞恥心と理人の気持ちを天秤にかけて、私は理人への気遣いを選んだ。
「……ごめんね。せっかくの旅行なのに」
恥ずかしいので、努めて正木くんのほうは見ないようにして理人の耳元に唇を寄せた状態でそうつぶやくと、私は観念して理人の肩に顔を埋めた。
ぐっと近づいてしまったからかな。
呼吸するたびにふわりと鼻腔をくすぐるさわやかなシトラス系の香りに、私は何だかドキドキと落ち着かない気持ちになってくる。
肌を重ねているときに、時折理人から香るそのにおいは、いつの間にか性的なイメージとともに私の脳にインプットされていた。
理人に、荷物を棚に上げてもらっていたら、突然前に座っていた若い男性から声をかけられた。
「――もしかして、丸山さん?」
見れば、高校時代クラスメイトだった正木くんで。
「わ、正木くん!?」
懐かしさに思わず声が弾んでしまってから、しまった、と思う。
案の定、理人がすかさず私の後ろに立って、「どなた?」なんてわざとらしく聞いてきた。
「高校生の頃のクラスメイトの正木くん。正木くん、こちらは――」
私が紹介するより先に、理人がずいっと私の前に出る。
「はじめまして。池本理人です。葵咲――あ、丸山さんとお付き合いさせていただいています」
わざとらしく一度、葵咲、と呼んでから丸山さん、と言い直したように聞こえた。
いつもスーツ姿の理人は、今日は白のサマーニットに、黒のスキニーというラフな格好で、実際の年齢より幾分若く見える印象だった。だからかな。
Tシャツにジーンズといういでたちの正木くんが、値踏みするように理人を見てから、
「あ、丸山の彼氏さんでしたか。俺は正木徹です。彼女とは出席番号が近かったご縁で学生時代、かなり仲良くしていただいてました」
わざと丸山、と私を呼び捨てにして、ことさら仲がよかったとか強調したように感じた。そういう子供っぽい反応が、何だか理人といい勝負で。
私は双方の口ぶりに、ぴりぴりとした緊張感を覚えてしまって、何だかソワソワと落ち着かない。
その空気を何とかしたくて、「正木くん、今日はどうしたの?」と聞けば、お盆間、おじいさんとおばあさんがやっておられる商売の手伝いに行くことになっている、と。
「結構人が来るからさ。バイトがてら俺も借り出されちゃって」
ここ数年はお盆の恒例行事なんだ、と言って、彼は苦笑した。
「大変ですね。僕たちは今から二人で旅行なんです」
にこやかに理人が言う。“二人で”というところを強調して。何だか少し自慢が入っているような?
結局、席が向かい合わせだったこともあって、一時間余りの新幹線の道行きの間中、そんな男性陣に挟まれて、私は少しも気持ちが休まらなかった。
表面上はふたりとも仲良く会話してくれているんだけど……。
こんなことなら理人とドライブを楽しんだほうが良かったのかも。
そんな風に思った。
***
どうやら正木くんも私たちと同じ駅で降りるらしい。
それを聞いた瞬間の理人の顔を思い出すと、測らず溜息がこぼれる。
(機嫌、悪そうだなぁ)
始終ニコニコと笑顔だけど、それ自体が常態ではない。
(絶対物凄く機嫌が悪い……)
理人の横顔を見て、私は何度目になるか分からない密かな吐息を漏らした。
「葵咲、元気ないけど大丈夫? 気分悪かったりする?」
そんな中でも、理人は私の変化にはとても敏感で。
「ううん。そういうわけじゃないの。新幹線に乗るの、久しぶりだったからちょっと疲れちゃっただけ……」
実際はこの空気が耐えられなくてのことなんだけど、二人が笑顔で取り繕っている以上、私が敢えて指摘するのもおかしいかなって思った。
「……少し眠る?」
到着までまだあと30分くらいかかるし。
理人がスマホの時刻を確認しながら言う。
「おいで」
うん、とも眠る、とも答えていないのに、彼は半ば強引に私の頭を自分の肩に持たせかけるように傾けさせた。
(う……。なんか恥ずかしい……)
目の前に同級生がいて……甘えたみたいなこの姿を見られているんだと思うと恥ずかしくて堪らない。
でも、もし今、身体を起こしたりなんかしたら、理人の厚意を踏みにじることになる。
自分の羞恥心と理人の気持ちを天秤にかけて、私は理人への気遣いを選んだ。
「……ごめんね。せっかくの旅行なのに」
恥ずかしいので、努めて正木くんのほうは見ないようにして理人の耳元に唇を寄せた状態でそうつぶやくと、私は観念して理人の肩に顔を埋めた。
ぐっと近づいてしまったからかな。
呼吸するたびにふわりと鼻腔をくすぐるさわやかなシトラス系の香りに、私は何だかドキドキと落ち着かない気持ちになってくる。
肌を重ねているときに、時折理人から香るそのにおいは、いつの間にか性的なイメージとともに私の脳にインプットされていた。
0
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる