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Aria
完璧な接客
しおりを挟むパスタもいいしハンバーグも捨てがたい。あ、カレーもいいなぁ。って、ちょっと待て、ピザもあるのかよ。
メニューをめくっていると、空腹も手伝って色々目移りしてしまう。ページを行ったり来たりしながら真剣に迷っていたら、
「私、シーフードドリアにする」
葵咲ちゃんの声がした。
幼い頃からスパッと物事を決める子だった彼女は、メニュー選びも早かった。それを見て、男の僕があれこれ悩んでるのはちょっと恥ずかしいな、とか思ってしまった。
「じゃ、僕はアラビアータとピザ」
ひとつに絞れなかったから、苦肉の策で二つ選んでみる。昼食を何だかんだで食べ損ねているし、余裕で食えるだろう。
メニューから顔を上げて、「葵咲、サラダとかいらないの?」と聞くと、途端彼女が巧みに視線を逸らす。
(眼鏡姿、まだ慣れないのか……)
好いてくれているみたいなのは嬉しいけれど、照れが勝ちすぎていつまでも目を見て話してもらえないのは少し寂しいかも。
コンタクトを買うのは延期しようかと思っていたけれど、普段はやはりそっちの方がいいかもしれない。
眼鏡はココ、という攻め時のために取っておくことにしよう。
(近いうちに眼科行こ……)
とか思っていたら、サラダのページを見ていた葵咲ちゃんが、「……美味しそうなの一杯あるけど……今日はもう遅いし、やめとく」と言った。
何とも女の子らしい返し。2種類も頼もうとしてる僕は彼女の目にはどう映っているんだろう。
(ピザはやめておこうかなぁ)
などなど……あれやこれやと頭の中で色々考えていることはおくびにも出さないで、僕は葵咲ちゃんに「飲み物はどうしようか?」と問いかけた。
ここにはドリンクバーのシステムはないので何か飲みたければ個別にオーダーしなければならない。
何となく、大事な話は食後に飲み物を飲みながらがいいかな……と思ってしまった。どうも葵咲ちゃんもそう思っていたみたいで、期せずして飲み物は食後でいいよね?と2人で声がそろってしまった。
葵咲ちゃんは紅茶を、僕は珈琲を頼もう、ということになった。
頼むものも決まったし、さて注文……と思ってメニューから顔を上げると、僕が店員を呼ぶ素振りを見せるより以前に、先ほどのウェイターがやってくる。
「お決まりですか?」
そんなに見られていた気はしなかったんだけど、実際客の動向をよく見てるんだなぁ、と感心してしまう。プロだ。
彼はクール系で、そんなに愛想がいいわけじゃない。だからといって失礼なわけでもなく……。何ていうか、彼の接客は僕にとってとても居心地の良い距離感なのだ。
彼がホールを気にしている間なら、変に邪魔されずに葵咲ちゃんと込み入った話ができる気がした。
間の悪い接客とか、そういうのとは無縁そうな……そんなイメージの男。
葵咲ちゃんがかっこいい、と称した店員の中には、絶対彼も入ってるな。
オーダーを通しにさっさときびすを返した長身の後ろ姿を見送りながら、そんなことを思って、我知らずため息がこぼれる。
ここに来る前は葵咲ちゃんに関しては、僕がここの店員に引けを取るはずがないとか思っていたんだけれど。
実際に来て彼の仕事ぶりを見ると、男の目から見ても嫌味なくらい、カッコよく見えてしまった。
(完敗だ……)
気遣いとかそういう面で。
だからと言って、葵咲ちゃんを渡す気は毛頭ないし、そもそも相手から宣戦布告されたわけでも、彼女自身からあのウェイターが好きだと言われたわけでもないんだけど。
(僕は何を一人で空回りをしてるんだろう?)
そう気付くと、何だか自分がとても滑稽に思えて一人微苦笑した。
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