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嫉妬心は誰のもの?
続きはアリアで
しおりを挟む「あのさ、ファミレスじゃダメ……かな?」
まだ夕飯も食べてないし、と付け加えてみる。
近くでこの時間に割と気軽に入れるところ。しかも彼女の貞操が危うくなる個室ではなくて……居酒屋でもないところ……。消去法で考えていくと、そこしか浮かばなかった。
「アリア?」
僕の問いかけに、初めて葵咲ちゃんが返してくれた。
「うん。――どうかな?」
葵咲ちゃんが名を挙げたアリアは、一応ファミレスだけどドリンクバーなどがないからか、店全体の雰囲気がとても落ち着いていて、どこかガチャガチャした印象の、他の同系店とは一線を画した店だった。その割には値段も手頃だし、何より店員の質が良くて僕は気に入っている。
けど、ファミレス、と告げただけで、彼女の口からその名が出たのには驚いた。
「理人もアリア派? 私もファミレス行くならあそこって決めてるの」
そこでふと何かを思い出したみたいな葵咲ちゃんは、一瞬ムッとした顔をしてから、まるでそれを振り払うみたいにニコッと笑みを浮かべた。
「それにあそこの店員さん、みんなかっこいいし」
次いで、さらりと継がれた言葉に、僕は思わず歩みを止める。急に立ち止まった僕の背中に、葵咲ちゃんがぶつかったけれど、ごめん、という言葉が出てこないくらい、僕にとって彼女の言葉はショッキングで。
もしかしたら、さっき僕が意地悪をした意趣返しだろうか? それにしたって、その言葉は聞き捨てならないんだけど。
「葵咲。それ、本気で言ってるの?」
彼女の手を握る腕に、思わず力をこめすぎてしまった。
「……理人、痛いっ」
顔をゆがめて僕の名を呼ぶ葵咲ちゃんの声に、慌てて手を放す。でも、さっきの言葉の真意だけは、どうしても確認したい。
「どうなの?」
うつむく葵咲ちゃんの頬に手をかけてこちらを無理矢理向かせると、僕は再度そう問いかけた。
なのに。
「……り、理人だって」
僕から必死に視線を逸らしながら、それでも葵咲ちゃんが不満げな声を上げたのは何でなんだ?
「僕だって、何? 言いたいことがあるんならこっち見て話せよ」
何でそこでそういう切り返しになるのか。今は僕が聞いてる番だろ。
葵咲ちゃんの煮え切らない態度に、僕は大人気なくイライラしてしまう。
「いつもカウンターは鈴木さんが多くて気づかなかったけど……図書館のバイトの人、女の子ばっかりじゃないっ。……みんな、可愛いかったしっ。理人だって、そう思ってるんじゃないの……?」
そういえば、葵咲ちゃんは、僕が退院してからこっち、僕のアパートと図書館前を何度も何度も行ったり来たりしたと言っていた。
僕自身は連日遅くまで残って作業していたから葵咲ちゃんに出会うことはなかったけれど、バイトの子達は――特に女の子たちは――少なくとも19時までには帰らせていたから……。葵咲ちゃんはその子たちを見たんだろうか。
って、ちょっと待て。だからって何でそうなる!?
「……えっと、あの、葵咲?」
「なによ!?」
理解が追いつかないまま彼女の名を呼ぶと、キッ!と睨み付けられた。
あれ? いつの間にか立場が逆転してない? 何で僕が怒られてる体になってるの?
「僕、一度でも彼女たちのことを可愛いって言ったことあった?」
さっき、葵咲ちゃんがアリアの店員を褒めたみたいに。
ないよね?
ないのは自分が一番よく知っている。だって、僕は葵咲ちゃんに出会って以来、彼女以外眼中にないんだから。
それで、過去何度も他の女性たちから顰蹙を買い続けてきたのを知らないのなんて、きっと僕を避けまくっていた葵咲ちゃんくらいだ。
「……言ってないっ! けど、分かるもん!」
この子は何をわけのわからないことを言っているんだろうね?
ふとそんなことを思ってから、はたとあることに気が付いた僕は、顔がにやけるのを抑えられなかった。
「そっか。分かるか……」
だから意地悪く、そんな風に言ってしまったのかもしれない。
僕から目を逸らしてムスッとしている葵咲ちゃんには、恐らく僕の笑みは見えていない。
「ねぇ葵咲。ここで話してても埒があかないし……とりあえず続きはアリアに移動してからにしない?」
僕も腰を据えて色々聞きたいし。
さっきは一瞬、葵咲ちゃんの言葉のせいでアリアに行くのをやめようかと思ったりもしたけれど、今の僕は何の躊躇いもなく彼女をそこへ連れて行ける。
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