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コール
やっと繋がった!
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部分的に開館したくても、建物の構造上なかなかそういうわけにもいかず、特に今回の場合受付けロビーを含む上層階が強くダメージを受けていたことで、図書館業務が再開できる目処が立ったのは、地震から優に三週間後のことだった。
六階の片付けの最中に失くしていたスマホを見付けたのも丁度その頃で。
六階は書架がドミノ倒しの要領で倒れていたから、一架一架学生たちの手を借りて順々に起こしては散らばった本を集めて整理していった。
僕たちに倒れ掛かってきた本棚は最後の一台だったから、起こせたのも最後で、思いのほかスマホを見つけるのにも時間がかかってしまった。途中、余りにも不便なので機種変を考えたくらいだ。
フロアマットには僕の血だまりの跡が残っていて……棚を起こして散乱した本を退かしてみると、案外そこからそう遠くないところに本に埋もれるようにして、僕のスマホは落ちていた。
数週間ぶりの愛機。当然充電は切れてしまっていてうんともすんとも言わなかったけれど、それを手にした途端、どうしてもその履歴が気になってしまう。
迷った末に、僕は久々に早目に帰宅することにした。
そうしようと思えたのは、大荒れだった図書館が、学生たちの尽力によりあらかた片付き、再開への道筋が見えてきたことも大きかった。
帰ってから携帯を充電器に挿し、数週間ぶりに電源を入れてみると、学園長や両親からの通知に混ざって、葵咲ちゃんからの連絡が一番たくさん入っていた。
しかも、そのほとんどは退院後の日付で。
着信履歴よりも、コンタクトツールアプリでの「元気?」とか「無理しすぎてない?」とか「連絡待ってます」などの方が、彼女の気持ちが言葉になって見える分、僕には堪えた。
退院して随分経つというのに……僕は未だに葵咲ちゃんにめちゃくちゃ心配を掛けている。
しかも、そんなメッセージをずっと未読だったとか……絶対物凄く不安にさせている。
そう思った僕は、充電もそこそこなスマホで、すぐに葵咲ちゃんに連絡を取った。たちまち彼女の反応が欲しかったから、メッセージアプリは介さずに電話をかける。
さんざん彼女を待たせておいて、僕はつくづく勝手な男だと思う。
***
『……やっと繋がった! 理人、元気なのっ?』
もしもし、という僕の声を聞くなり、葵咲ちゃんが矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
彼女は僕の退院に付き添って僕をアパートまで送り届けた後、毎日のように図書館やアパートへ足を運んでいたのだと言った。
『図書館はずっと閉館のままだし、アパートもいつも留守だし。携帯も通じないから連絡の取りようもないし……。私、ホントに心配したんだよっ?』
いつも割と穏やかな口調の彼女が、珍しくまくしたてるように言う。
幼い頃は結構こんな感じだった葵咲ちゃんだけど、長じてからは僕が言葉を発して、彼女はそれに二言三言答える、という感じだったから。
僕は、葵咲ちゃんのそういう饒舌な反応だけで、彼女にどれだけ負担を強いていたのかを痛感させられた。
「ごめん……」
ずっとスマホが見つからなくて……、と続けようとして、やめる。
そんなのただの言い訳だ。
忙しいのを理由に葵咲ちゃんに連絡を取らなかったのは、僕の怠慢。
何となく、次に彼女に連絡する時には……僕たちの関係に白黒をつけなくてはいけない気がして……。それが怖くて連絡できなかっただけなのだから。
「やっと落ち着いてきたから……明日は多分定時で上がれると思う。……だからさ、その、夜にでも少し……会えない、かな?」
本当は「会いたい」と言いたかったけれど、寸でのところでその言葉を呑みこんで、僕は「会えないかな?」と言い変えた。
どこまでも意気地がない。
少し前までは、何が何でも彼女を振り向かせてやる!といわれのない自信があったのに……。
彼女が僕と向き合ってくれればくれるようになるほど、逆に僕はどんどん自分の気持ちを出すことが出来なくなっていた。
逃げるばかりだった彼女との距離がぐっと縮まった途端、それを壊すことが怖くなったんだ。
だけど、僕が「会えないかな?」と告げた声に、葵咲ちゃんからの『会いたい!』という言葉が被さって、僕はすごく驚いた。
そればかりか――。
『理人、今、どこにいるの?』
「え? ……アパート、だけど」
そう答えると、
『今からそっちに行っちゃダメ?』
なんと、彼女は明日ではなく、今日の予定を聞いてきたのだ。
時計を見ると、20時を回ったところで。僕は思わず「ダメだ」と即答していた。
『……ごめん。そう、だよね。いくらなんでも今からなんて迷惑だよね』
途端、電話の向こうで葵咲ちゃんの落胆した声がする。
「そういう意味じゃない。女の子が夜遅くに一人で出歩くとかダメに決まってるだろ? 僕が迎えにいくから……どこにいるか教えて?」
願わくは、安全な家にいると言って欲しかった。でも……。
六階の片付けの最中に失くしていたスマホを見付けたのも丁度その頃で。
六階は書架がドミノ倒しの要領で倒れていたから、一架一架学生たちの手を借りて順々に起こしては散らばった本を集めて整理していった。
僕たちに倒れ掛かってきた本棚は最後の一台だったから、起こせたのも最後で、思いのほかスマホを見つけるのにも時間がかかってしまった。途中、余りにも不便なので機種変を考えたくらいだ。
フロアマットには僕の血だまりの跡が残っていて……棚を起こして散乱した本を退かしてみると、案外そこからそう遠くないところに本に埋もれるようにして、僕のスマホは落ちていた。
数週間ぶりの愛機。当然充電は切れてしまっていてうんともすんとも言わなかったけれど、それを手にした途端、どうしてもその履歴が気になってしまう。
迷った末に、僕は久々に早目に帰宅することにした。
そうしようと思えたのは、大荒れだった図書館が、学生たちの尽力によりあらかた片付き、再開への道筋が見えてきたことも大きかった。
帰ってから携帯を充電器に挿し、数週間ぶりに電源を入れてみると、学園長や両親からの通知に混ざって、葵咲ちゃんからの連絡が一番たくさん入っていた。
しかも、そのほとんどは退院後の日付で。
着信履歴よりも、コンタクトツールアプリでの「元気?」とか「無理しすぎてない?」とか「連絡待ってます」などの方が、彼女の気持ちが言葉になって見える分、僕には堪えた。
退院して随分経つというのに……僕は未だに葵咲ちゃんにめちゃくちゃ心配を掛けている。
しかも、そんなメッセージをずっと未読だったとか……絶対物凄く不安にさせている。
そう思った僕は、充電もそこそこなスマホで、すぐに葵咲ちゃんに連絡を取った。たちまち彼女の反応が欲しかったから、メッセージアプリは介さずに電話をかける。
さんざん彼女を待たせておいて、僕はつくづく勝手な男だと思う。
***
『……やっと繋がった! 理人、元気なのっ?』
もしもし、という僕の声を聞くなり、葵咲ちゃんが矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。
彼女は僕の退院に付き添って僕をアパートまで送り届けた後、毎日のように図書館やアパートへ足を運んでいたのだと言った。
『図書館はずっと閉館のままだし、アパートもいつも留守だし。携帯も通じないから連絡の取りようもないし……。私、ホントに心配したんだよっ?』
いつも割と穏やかな口調の彼女が、珍しくまくしたてるように言う。
幼い頃は結構こんな感じだった葵咲ちゃんだけど、長じてからは僕が言葉を発して、彼女はそれに二言三言答える、という感じだったから。
僕は、葵咲ちゃんのそういう饒舌な反応だけで、彼女にどれだけ負担を強いていたのかを痛感させられた。
「ごめん……」
ずっとスマホが見つからなくて……、と続けようとして、やめる。
そんなのただの言い訳だ。
忙しいのを理由に葵咲ちゃんに連絡を取らなかったのは、僕の怠慢。
何となく、次に彼女に連絡する時には……僕たちの関係に白黒をつけなくてはいけない気がして……。それが怖くて連絡できなかっただけなのだから。
「やっと落ち着いてきたから……明日は多分定時で上がれると思う。……だからさ、その、夜にでも少し……会えない、かな?」
本当は「会いたい」と言いたかったけれど、寸でのところでその言葉を呑みこんで、僕は「会えないかな?」と言い変えた。
どこまでも意気地がない。
少し前までは、何が何でも彼女を振り向かせてやる!といわれのない自信があったのに……。
彼女が僕と向き合ってくれればくれるようになるほど、逆に僕はどんどん自分の気持ちを出すことが出来なくなっていた。
逃げるばかりだった彼女との距離がぐっと縮まった途端、それを壊すことが怖くなったんだ。
だけど、僕が「会えないかな?」と告げた声に、葵咲ちゃんからの『会いたい!』という言葉が被さって、僕はすごく驚いた。
そればかりか――。
『理人、今、どこにいるの?』
「え? ……アパート、だけど」
そう答えると、
『今からそっちに行っちゃダメ?』
なんと、彼女は明日ではなく、今日の予定を聞いてきたのだ。
時計を見ると、20時を回ったところで。僕は思わず「ダメだ」と即答していた。
『……ごめん。そう、だよね。いくらなんでも今からなんて迷惑だよね』
途端、電話の向こうで葵咲ちゃんの落胆した声がする。
「そういう意味じゃない。女の子が夜遅くに一人で出歩くとかダメに決まってるだろ? 僕が迎えにいくから……どこにいるか教えて?」
願わくは、安全な家にいると言って欲しかった。でも……。
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