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目覚めてみると
見慣れなくて緊張するの
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葵咲ちゃんに握られた手からは点滴の管も伸びていて、こちらの腕を動かすのは得策ではなさそうだった。僕は少し身体を起こすと、空いた方の手で彼女の艶やかな黒髪を撫でる。
顔がよく見たくて、頬にかかる髪の毛をそっと耳に掛けると、その気配に葵咲ちゃんが小さく身じろいで目を開けた。
ゆっくりと上体を起こして、しばらくぼんやりと前方を見つめていた彼女の視線が、ややして僕の方を向く。
「……お、おはよう……?」
今が何時なのかは分からないけれど、とりあえず2人とも寝起きだからそう言ってみる。
「……っ!」
その瞬間、葵咲ちゃんがはじかれたように僕に顔を近づけてきた。
(わわっ。ちょっと待って……近いっ!)
自分から迫るのには慣れているけれど、逆は想定外。
いきなりの急接近にどぎまぎする僕を置き去りに、至近距離で僕の顔を確認してから、そこでハッと何かに気づいたみたいに真っ赤になる葵咲ちゃん。
「本当に目、覚めてるんだよね? 夢じゃ、ない……よ、ね?」
言いながら、確認するように自分のほっぺたをぺちぺち叩いてみてから、真実だと分かるとホッとしたように床にへたり込んでしまった。
「……葵咲!?」
今度は僕が驚く番だった。
慌ててベッドサイドを覗き込むように確認すると、床にぺたっと両足を付けて、いわゆるアヒル座りになっている彼女が目に入った。
急に頭を動かしたことで、頭部がズキリと痛んだけれど、そんなことよりも葵咲ちゃんのことが心配で――。
上から見下ろす形なので顔まではよく見えないけれど、耳が真っ赤なところを見ると彼女は赤面しているんだろうか? でも、何故?
「葵咲……?」
恐る恐る呼びかけてみると、葵咲ちゃんは一瞬びくっと肩を震わせてから、
「せ、先生たちを呼ばないとっ」
さっきはあれほど近くまで顔を寄せてきたくせに、不自然なくらい全く目を合わせようとしない。
(ちょっと待って、僕、何かした?)
視線をわざとらしいくらい逸らしたまま、僕の枕近くにあるナースコールを押す葵咲ちゃんに、どうしても不満が漏れてしまう。
「ねぇ、何でこっち向いてくれないの?」
僕は葵咲ちゃんが、疲れて眠り込んでしまうくらい、長い間ずっと僕に付き添ってくれていたんだと思っていた。違うんだろうか?
「……眼鏡の理人、見慣れてなくて緊張するの」
僕から視線を逸らしたまま、葵咲ちゃんがボソリと呟いた。
(マジか……)
その後はナースコールで事情を聞いて駆けつけてきた看護師さんが、担当の先生を連れてやってきたり――。
たまたま同じフロアの休憩コーナーで休んでいたという両親が、息子が目覚めたという知らせを受けて、僕の顔を見に駆けつけてきたり――。
葵咲ちゃんと二人きりになれたあの数分間が幻だったのではないかと錯覚を覚えるような、バタバタとした賑やかな時間が流れた。
その時にみんなから聞いた話をまとめてみると、情けないことに僕はあの地震騒ぎのあと、丸二日、気を失ったままだったらしい。
出血量が多かったのもさることながら、葵咲ちゃんとのことが気になりすぎて、睡眠不足だったのも祟ったみたいで。
要は失血はきっかけにしか過ぎなくて……僕は丸2日間爆睡していたということだ。
両親によると、僕の予想通り、その間、葵咲ちゃんはずっと僕のそばを離れずにいてくれたみたいだ。
周りがどんなに少し休んだ方が……と説得しても、頑として僕から離れようとしなかったらしい。
「貴方と葵咲ちゃんは兄妹みたいにして育ったんですものね」
母はそう言って笑ったけれど、僕は違うと思った。
――いや、違って欲しいと思った、と言うべきか。
顔がよく見たくて、頬にかかる髪の毛をそっと耳に掛けると、その気配に葵咲ちゃんが小さく身じろいで目を開けた。
ゆっくりと上体を起こして、しばらくぼんやりと前方を見つめていた彼女の視線が、ややして僕の方を向く。
「……お、おはよう……?」
今が何時なのかは分からないけれど、とりあえず2人とも寝起きだからそう言ってみる。
「……っ!」
その瞬間、葵咲ちゃんがはじかれたように僕に顔を近づけてきた。
(わわっ。ちょっと待って……近いっ!)
自分から迫るのには慣れているけれど、逆は想定外。
いきなりの急接近にどぎまぎする僕を置き去りに、至近距離で僕の顔を確認してから、そこでハッと何かに気づいたみたいに真っ赤になる葵咲ちゃん。
「本当に目、覚めてるんだよね? 夢じゃ、ない……よ、ね?」
言いながら、確認するように自分のほっぺたをぺちぺち叩いてみてから、真実だと分かるとホッとしたように床にへたり込んでしまった。
「……葵咲!?」
今度は僕が驚く番だった。
慌ててベッドサイドを覗き込むように確認すると、床にぺたっと両足を付けて、いわゆるアヒル座りになっている彼女が目に入った。
急に頭を動かしたことで、頭部がズキリと痛んだけれど、そんなことよりも葵咲ちゃんのことが心配で――。
上から見下ろす形なので顔まではよく見えないけれど、耳が真っ赤なところを見ると彼女は赤面しているんだろうか? でも、何故?
「葵咲……?」
恐る恐る呼びかけてみると、葵咲ちゃんは一瞬びくっと肩を震わせてから、
「せ、先生たちを呼ばないとっ」
さっきはあれほど近くまで顔を寄せてきたくせに、不自然なくらい全く目を合わせようとしない。
(ちょっと待って、僕、何かした?)
視線をわざとらしいくらい逸らしたまま、僕の枕近くにあるナースコールを押す葵咲ちゃんに、どうしても不満が漏れてしまう。
「ねぇ、何でこっち向いてくれないの?」
僕は葵咲ちゃんが、疲れて眠り込んでしまうくらい、長い間ずっと僕に付き添ってくれていたんだと思っていた。違うんだろうか?
「……眼鏡の理人、見慣れてなくて緊張するの」
僕から視線を逸らしたまま、葵咲ちゃんがボソリと呟いた。
(マジか……)
その後はナースコールで事情を聞いて駆けつけてきた看護師さんが、担当の先生を連れてやってきたり――。
たまたま同じフロアの休憩コーナーで休んでいたという両親が、息子が目覚めたという知らせを受けて、僕の顔を見に駆けつけてきたり――。
葵咲ちゃんと二人きりになれたあの数分間が幻だったのではないかと錯覚を覚えるような、バタバタとした賑やかな時間が流れた。
その時にみんなから聞いた話をまとめてみると、情けないことに僕はあの地震騒ぎのあと、丸二日、気を失ったままだったらしい。
出血量が多かったのもさることながら、葵咲ちゃんとのことが気になりすぎて、睡眠不足だったのも祟ったみたいで。
要は失血はきっかけにしか過ぎなくて……僕は丸2日間爆睡していたということだ。
両親によると、僕の予想通り、その間、葵咲ちゃんはずっと僕のそばを離れずにいてくれたみたいだ。
周りがどんなに少し休んだ方が……と説得しても、頑として僕から離れようとしなかったらしい。
「貴方と葵咲ちゃんは兄妹みたいにして育ったんですものね」
母はそう言って笑ったけれど、僕は違うと思った。
――いや、違って欲しいと思った、と言うべきか。
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