【完結】【R18】つべこべ言わずに僕に惚れろよ

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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カフェ

オムライスと珈琲

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 葵咲きさきちゃんと書庫で会ってから今日で五日。僕は結局何のアクションも起こさないまま悶々とした日々を過ごしている。
 呼び出せばまた手を出してしまいそうで……なかなか気持ちに踏ん切りが付けられなかったのだ。
 本当に情けない。
 でも、そのせいで仕事もろくに手につかないし、いい加減覚悟を決めないといけないな、とも思う。

 お腹が鳴って、僕はまだお昼を食べていないことに気が付いた。事務所内の時計を見ると、そろそろ13いち時半になろうかという時間で。
 少し気分を変えようと、僕は学内の食堂上階にあるカフェに足を運ぶことにした。
「ちょっと出てくるから困ったことがあったらメールして」
 手にしたスマホを見せながら、カウンターにいるの女の子――篠原麻衣子さんという――に声をかける。当番が鈴木君じゃないのが少し不安だが、彼女も結構しっかりしているだし、何かあったらカウンター内のパソコンからメールをくれるだろう。
 館内に二台ある書誌データが共有されているパソコンも、昨今の風潮でオンラインになっている。

 ロビーに三台並んだ、蔵書管理用のパソコンとは切り離された、申請すれば誰でも利用可能なインターネット用のパソコンと違い、膨大な書誌データを守るため、事務処理用のパソコンはセキュリティの関係でフィルターが働く。ブロックされるサイトの頻度が結構高くてあちこちに飛ぶのは無理だけど、あらかじめ設定したアドレスにメールくらいは送れるようになっている。
 僕は館外に出るときのためにバイトの子たちにはメールでの呼び出し方法も伝えていた。

 外に出ると、五月の心地よい日差しが降り注いできた。本格的な夏の到来まであと少し。
 今まで薄暗い室内にいたせいか、明るい陽光が結構こたえる。僕は目をすがめると、手をかざして影を作りながら上空を見上げた。
 青い空に、ぽつぽつ漂うわた雲。今は太陽にかかる位置に雲は浮かんでいないようだ。
 青空と雲のコントラストにしばし見入っていたら、目が明るさに慣れてきた。
 僕はカフェに向かって歩き出しながら、いい加減葵咲きさきちゃんに連絡を入れないとな、と改めて思った。

***

「こんにちは」
 食堂を素通りし、二階にあるカフェの扉を開けると、ここを一人で切り盛りしている水沢菜摘さんと目が合った。
「こんにちは、池本先生。――お昼は、もう?」
 大学、という場所柄か、別に教員というわけではないのだが職員というだけで「先生」と呼ばれることがままある。
 最初は凄く違和感があったけれど、大分慣れた。いちいち否定するのも面倒なので、最近はそのまま流すようにしている。
「いや、まだなのでお願いしようかなと思って……」
 前に珈琲を飲みに来て、下の食堂ほど本格的ではないにせよ、軽食程度なら頼めると知ってから、僕は時折ここで昼食や夕食をとるようになっていた。
 下だと何となく落ち着かないのが、こちらの店舗だと静かで読書にも向いているからだ。
「オムライスと……食後に珈琲をお願いできますか?」
 ここのオムライスと珈琲は絶品だ。いや、何でも美味うまいのだが、僕はその二つが特に気に入っている。
 オーダーを取りに来た彼女にそう告げると、僕は読みかけの小説に目を落とした。
 店内には今は僕しかいない。
 時間帯によっては満席で入るのを諦めることもあるのだけれど、空いている時間帯を把握できたら、結構のんびり出来ることを僕は学んだ。
 四年生は授業がなければ大学自体に来ない子もいるし、他の学年の子達は大抵講義が入っているのだろう。
 昼のこの時間は結構穴場だったりする。

 葵咲きさきちゃんもきっと今頃授業中だろうな。
 本を開いているものの、どうもよそ事ばかり考えてしまう。

 結局オムライスが運ばれてくるまで、僕は一行も読み進めることは出来なかった。
 僕はあの日以来、あまりにも色々なことが手に付かなくなってきている。
 
 覚悟を決めて夜にでも彼女に電話しよう。
 そう、思った。
 
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