14 / 324
サプライズ
ホントに理人なの?
しおりを挟む
僕の事前の調べによると、葵咲ちゃんは最近、日本十進分類法でいうところの2類の資料――即ち歴史や地理関連の資料――を中心に閲覧しているようだ。
ゼミと関わりがあるのかどうかは分からないが、今日もその分類の棚に来てくれるなら僕にとってこれほど好都合なことはない。
何故ならニ類はこの図書館では一階に配架されているからだ。
一階は日頃からあまり人気のないフロアだ。かなりの高確率で二人っきりになれる。
七階の事務室でカウンターを気にしつつ本の整理をしながら過ごしていたら、果たして人の入ってくる気配があった。ドアの隙間から覗き見れば、ビンゴ! それは僕の待ち人、葵咲ちゃんだった。
久々に見る葵咲ちゃんのコーディネートは、薄手の白の長袖ブラウスに、藤色のグラデーションカラーのロングスカート。足元は白のエスパドリーユ。
女子高生の時とはまた違った大人の魅力を感じる落ち着いたコーディネートに、あの小さかった女の子も、とうとう大学生になったんだなぁと今更のように実感する。
髪も、緩めの編み込みで一つに束ねられていて、ふんわりした印象がとても愛らしい。
帆布のキャンバストートを肩に下げているところが如何にも女子大生っぽくていいな、なんて思ってしまう。
鈴木君に、返却の本を手渡しながら二言三言会話を交わしているようだ。
本を返し終わると、カウンター横のエレベーターのボタンを押す姿が目に入った。
エレベーターを使うということは、割と下の階に行く可能性が高い。
そう思った僕は一人事務室内でガッツポーズをする。
エレベーターの扉が開いて葵咲ちゃんが乗り込むのを確認して、僕はおもむろに事務室の扉を開けた。
はやる気持ちを抑えながら足早にロビーを突っ切る。
歩きながら、エレベーターの昇降ランプを目で追うことも忘れない。
「書庫に入るついでにこれ、片付けてくるよ」
何気ない風を装ってカウンターの鈴木君に声を掛けながら、今しがた葵咲ちゃんから返却されたばかりの本を2冊手に取る。
無口な鈴木君が会釈で返してくるのを横目に見ながら、僕は書庫の階段を足早に駆け降りた。
***
やはり今日も、葵咲ちゃんは歴史書の棚の前にいた。
カバンは重かったのかな。足元に置いてある。
とても真剣な顔をして本を選んでいるのを棚の本越しに盗み見て、思わず笑みがこぼれる。
三階辺りから、僕は歩調を緩めて余り音をたてないように階段を降りた。
このフロアに入って葵咲ちゃんの位置を確認してからは、ことさら静かに行動した。
床に貼られたフロアマットが音を吸収してくれるお陰で、足音もほとんどしなかったはずだ。
それで、すぐ背後に立つまで、葵咲ちゃんは僕の気配に気づかなかったらしい。
とりあえず、上から持って降りてきたニ冊の本を手近な書架に仮置きする。
「葵咲」
わざと少しトーンを落として背後から呼びかけながら抱きしめると、葵咲ちゃんの身体が瞬間ビクッと跳ね上がった。
刹那、抑えきれなかった「キャッ!」という短い悲鳴が上がる。僕にはそれすら愛しかった。
あまりに静かなフロアだったから、存外自分の声が響いたことに、葵咲ちゃんが耳を真っ赤にする。
まさか人気のないこのフロアで、間近からいきなり声をかけられて……あまつさえ抱きしめられるなんて思ってもいなかったんだろう。
彼女に回した腕に、トクトクと脈打つ彼女の鼓動が伝わってくる。
「……会いたかったよ」
後ろからわざと熱を持った耳に唇を寄せて囁けば、彼女の鼓動が更に早まった。
どさくさに紛れてブラウスの胸ボタンの隙間から柔らかな胸の谷間に人差し指を滑り込ませたら、驚いたように彼女が背後を振り向いた。
そこで初めて僕を確認すると
「……ホントに理人……なの?」
信じられないものを見たという顔をする。
「久しぶりだね」
言いながら、指は彼女の胸元のボタンを外しにかかる。
「ちょっと、理人っ! お願いだから悪ふざけはやめてっ」
僕の指から素肌を遠ざけるように葵咲ちゃんが身じろぐ。僕はその動きに合わせて彼女の身体をくるりと自分と向き合うように回転させた。
彼女を書架に押しつけるように閉じ込めたまま、真正面から見下ろすように微笑むと、彼女の瞳が大きく見開かれる。
寸の間沈黙が流れた後、
「……どうして貴方がここに?」
至極まともな問いかけがあった。
ゼミと関わりがあるのかどうかは分からないが、今日もその分類の棚に来てくれるなら僕にとってこれほど好都合なことはない。
何故ならニ類はこの図書館では一階に配架されているからだ。
一階は日頃からあまり人気のないフロアだ。かなりの高確率で二人っきりになれる。
七階の事務室でカウンターを気にしつつ本の整理をしながら過ごしていたら、果たして人の入ってくる気配があった。ドアの隙間から覗き見れば、ビンゴ! それは僕の待ち人、葵咲ちゃんだった。
久々に見る葵咲ちゃんのコーディネートは、薄手の白の長袖ブラウスに、藤色のグラデーションカラーのロングスカート。足元は白のエスパドリーユ。
女子高生の時とはまた違った大人の魅力を感じる落ち着いたコーディネートに、あの小さかった女の子も、とうとう大学生になったんだなぁと今更のように実感する。
髪も、緩めの編み込みで一つに束ねられていて、ふんわりした印象がとても愛らしい。
帆布のキャンバストートを肩に下げているところが如何にも女子大生っぽくていいな、なんて思ってしまう。
鈴木君に、返却の本を手渡しながら二言三言会話を交わしているようだ。
本を返し終わると、カウンター横のエレベーターのボタンを押す姿が目に入った。
エレベーターを使うということは、割と下の階に行く可能性が高い。
そう思った僕は一人事務室内でガッツポーズをする。
エレベーターの扉が開いて葵咲ちゃんが乗り込むのを確認して、僕はおもむろに事務室の扉を開けた。
はやる気持ちを抑えながら足早にロビーを突っ切る。
歩きながら、エレベーターの昇降ランプを目で追うことも忘れない。
「書庫に入るついでにこれ、片付けてくるよ」
何気ない風を装ってカウンターの鈴木君に声を掛けながら、今しがた葵咲ちゃんから返却されたばかりの本を2冊手に取る。
無口な鈴木君が会釈で返してくるのを横目に見ながら、僕は書庫の階段を足早に駆け降りた。
***
やはり今日も、葵咲ちゃんは歴史書の棚の前にいた。
カバンは重かったのかな。足元に置いてある。
とても真剣な顔をして本を選んでいるのを棚の本越しに盗み見て、思わず笑みがこぼれる。
三階辺りから、僕は歩調を緩めて余り音をたてないように階段を降りた。
このフロアに入って葵咲ちゃんの位置を確認してからは、ことさら静かに行動した。
床に貼られたフロアマットが音を吸収してくれるお陰で、足音もほとんどしなかったはずだ。
それで、すぐ背後に立つまで、葵咲ちゃんは僕の気配に気づかなかったらしい。
とりあえず、上から持って降りてきたニ冊の本を手近な書架に仮置きする。
「葵咲」
わざと少しトーンを落として背後から呼びかけながら抱きしめると、葵咲ちゃんの身体が瞬間ビクッと跳ね上がった。
刹那、抑えきれなかった「キャッ!」という短い悲鳴が上がる。僕にはそれすら愛しかった。
あまりに静かなフロアだったから、存外自分の声が響いたことに、葵咲ちゃんが耳を真っ赤にする。
まさか人気のないこのフロアで、間近からいきなり声をかけられて……あまつさえ抱きしめられるなんて思ってもいなかったんだろう。
彼女に回した腕に、トクトクと脈打つ彼女の鼓動が伝わってくる。
「……会いたかったよ」
後ろからわざと熱を持った耳に唇を寄せて囁けば、彼女の鼓動が更に早まった。
どさくさに紛れてブラウスの胸ボタンの隙間から柔らかな胸の谷間に人差し指を滑り込ませたら、驚いたように彼女が背後を振り向いた。
そこで初めて僕を確認すると
「……ホントに理人……なの?」
信じられないものを見たという顔をする。
「久しぶりだね」
言いながら、指は彼女の胸元のボタンを外しにかかる。
「ちょっと、理人っ! お願いだから悪ふざけはやめてっ」
僕の指から素肌を遠ざけるように葵咲ちゃんが身じろぐ。僕はその動きに合わせて彼女の身体をくるりと自分と向き合うように回転させた。
彼女を書架に押しつけるように閉じ込めたまま、真正面から見下ろすように微笑むと、彼女の瞳が大きく見開かれる。
寸の間沈黙が流れた後、
「……どうして貴方がここに?」
至極まともな問いかけがあった。
0
お気に入りに追加
216
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる