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■ひとりで気負い過ぎんなよ(オマケ的短編)

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「日中俺が仕事に行ってる間、凜子りんこはずっと拓斗タクトの面倒見てくれてんだろ? その分、俺も家にいる時くらいは父親らしいことしてぇし、風呂も俺が入れるんで問題ねぇだろ」

 何でもかんでも母親のみが背負しょい込む必要はないのだと言いながら、ヨシヨシと頭を撫でてくださる奏芽かなめさんの大きな手がすごく心地いい。

 奏芽さんの手に触れられるたび、今日1日拓斗タクトがあまり眠ってくれなくて、疲れ気味だった身体が癒されていくようで。


 拓斗タクトの親は凜子1人じゃないのだからと奏芽さんから噛んで含めるようにさとされて、私は自分がどれだけ「母親なんだから」という思いに囚われてアレコレ気負いすぎていたのかを思い知った。


「奏芽さん。お疲れのところ申し訳ないのですが……拓斗タクトのお風呂、お願いしたいです」

 ギュッと奏芽さんにしがみつきながら彼を見上げたら、

「申し訳ないとか……なし、な? 凜子が拓斗タクトの面倒を見ないとって思うのと同じくらい、俺もそう思ってんだし」

 親としての思いに差はないのだから、私だけが奏芽さんに対して引け目を感じる必要はないのだと、再度やんわりとたしなめられる。

「――あ、風呂上がりのあれこれは凜子にやってもらえると助かるんだけど……頼めるか?」

 そう問いかけられて、私はコクン、とうなずいた。


 奏芽かなめさんはきっと、拓斗タクトの沐浴後のタオルドライや保湿、着替えに至るまで全て1人でそつなくこなせる人だと思う。

 だけど、あえてそこを私にお願いしてくれるのが彼らしいなって思うのと同時に有難くて。

 奏芽さんは私の性格を本当に熟知しておられる。

 私、奏芽さんに拓斗タクトのお風呂の一切合切いっさいがっさいを任せっきりにして何もしなくてもいいって言われていたら、きっと居た堪れなかったもの。

 奏芽さんは本当に周りに対する気配りが出来る魅力的な人だ。

 こんな素敵な人が私の夫だなんて、何て幸せなんだろう。

 そう気づいた途端、大好きって気持ちが溢れて、胸がキュンと切なく疼いた。


 考えてみれば、奏芽かなめさんは拓斗タクトのお世話に関して何ひとつ嫌がったりする素振りを見せられたことすらなかった。

 よく男の人は出来ないと聞く、うんちの時のおむつ替えでさえ、私に何かを言うわけでもなく当然のようにサラリと済ませてしまわれるし、何なら「拭くより洗った方が気持ちいいからな」って拓斗のお尻をお湯で綺麗に洗い流してくださったりもして。

 その奏芽さんが、拓斗タクトの沐浴に協力してくださらないわけなかったのに。

 どうして私、奏芽さんの帰宅を待たずにそれを済ませないといけないとか思ってしまったんだろう。

 さっきまでの気負いすぎていた私は本当におバカさんだ。


 奏芽さんに頼られて嬉しいと私が感じたように、きっと奏芽さんも。
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