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特典④『ごめん、許して?』
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聞こえないのを承知で扉を外からノックして、そっと――と言っても重いのでグッと力を込める。
防音扉特有の粘り気のある音とともにそこを開けると、俺は恐る恐る中を覗き込んだ。
「凜子?」
窓は大きなのがついているけれど、厚めの防音カーテンが締め切られたままではさすがに薄暗くてよく見えない。
「電気つけるぞ」
一応声をかけて入り口そばのスイッチをオンにしたら、グランドピアノの陰になるような場所――カーテンのすぐ近くに凜子がうずくまっていた。
俺が入ってきた気配を感じるや否やくるりと身体の向きを変えて窓の方を向いてしまう。
間際までこちらを向いていたこと、俺の気配を察した途端後ろを向いたことで、凜子の心中を慮る。
こちらへ向けられた小さな背中からは「こないで」というオーラが漂ってくるけれど、本心は裏腹なはずだ。
でも、俺にはそれにも増して気になることがあって。
「なぁ、凜子。ここ、寒いだろ?」
寒がりの凜子が、暖房も効いていない室内の――しかも窓ぎわに寄って座っているとか。
絶対寒くないわけがないのだ。
「私のこと嫌いな奏芽さんには関係ないですっ」
言外に、私が寒かろうと暑かろうとどうでもいいじゃないですか、という言葉を滲ませてツンとした凜子の声が、微かに震えていることに気づかない俺じゃない。
「な、凜子。悪かったって」
恐る恐る彼女に近づいて、すぐそばにしゃがみ込んで、横からそっと顔を覗き込んだら、涙目で睨まれた。
う……。
やばい。
むちゃくちゃ可愛い。
不機嫌さをあらわにした凜子の顔に見惚れたとか言ったら、ますます怒らせるだろうか。
「ホント反省してるから。ごめん。お願いだから許して?」
そっと肩を抱くようにして体温を凜子に分け与えながら、耳元に唇を寄せてささやけば、彼女の肩がピクッと跳ねたのが分かった。
そのままクルリと向きを変えると、俺にギュッと抱きついてきて「好きって言ってくれたら許します」と小さくつぶやく。
うわ。
何だ、今日の凜子、可愛いすぎるだろっ。
俺はあと2ヶ月もこんなとんでもなく可愛くて魅力的な生き物を相手に、禁欲を貫かなきゃいけないのか?
自分で決めたことなのに、段々自信がなくなってきた。
「嫌いとか言ってごめん。あんなん嘘に決まってる。俺、凜子のこと異性としてすっげぇ好きだし意識してっから。――だから……早く二十歳になって?」
今だって、抱かない宣言が簡単に揺らぎそうで怖くて、この場からすぐさま立ち去ってしまいたくなるぐらいに凜子のこと、――いやらしい意味で抱きしめたくて堪らんねぇんだけど?
言っても信じてもらえねぇかもしんないけどさ。
「――けど……凜子だって……」
潤んだ瞳で俺を見上げてくる凜子の薄く開いた唇に舌を滑り込ませたい衝動を押さえつけるように、俺は視線をふいっと逸らして拗ねたように付け加える。
「さっき俺のこと大っ嫌いって言ったの、取り消してくんね? 結構ショックだったんだけど?」
END(2020/10/06~10/7)
聞こえないのを承知で扉を外からノックして、そっと――と言っても重いのでグッと力を込める。
防音扉特有の粘り気のある音とともにそこを開けると、俺は恐る恐る中を覗き込んだ。
「凜子?」
窓は大きなのがついているけれど、厚めの防音カーテンが締め切られたままではさすがに薄暗くてよく見えない。
「電気つけるぞ」
一応声をかけて入り口そばのスイッチをオンにしたら、グランドピアノの陰になるような場所――カーテンのすぐ近くに凜子がうずくまっていた。
俺が入ってきた気配を感じるや否やくるりと身体の向きを変えて窓の方を向いてしまう。
間際までこちらを向いていたこと、俺の気配を察した途端後ろを向いたことで、凜子の心中を慮る。
こちらへ向けられた小さな背中からは「こないで」というオーラが漂ってくるけれど、本心は裏腹なはずだ。
でも、俺にはそれにも増して気になることがあって。
「なぁ、凜子。ここ、寒いだろ?」
寒がりの凜子が、暖房も効いていない室内の――しかも窓ぎわに寄って座っているとか。
絶対寒くないわけがないのだ。
「私のこと嫌いな奏芽さんには関係ないですっ」
言外に、私が寒かろうと暑かろうとどうでもいいじゃないですか、という言葉を滲ませてツンとした凜子の声が、微かに震えていることに気づかない俺じゃない。
「な、凜子。悪かったって」
恐る恐る彼女に近づいて、すぐそばにしゃがみ込んで、横からそっと顔を覗き込んだら、涙目で睨まれた。
う……。
やばい。
むちゃくちゃ可愛い。
不機嫌さをあらわにした凜子の顔に見惚れたとか言ったら、ますます怒らせるだろうか。
「ホント反省してるから。ごめん。お願いだから許して?」
そっと肩を抱くようにして体温を凜子に分け与えながら、耳元に唇を寄せてささやけば、彼女の肩がピクッと跳ねたのが分かった。
そのままクルリと向きを変えると、俺にギュッと抱きついてきて「好きって言ってくれたら許します」と小さくつぶやく。
うわ。
何だ、今日の凜子、可愛いすぎるだろっ。
俺はあと2ヶ月もこんなとんでもなく可愛くて魅力的な生き物を相手に、禁欲を貫かなきゃいけないのか?
自分で決めたことなのに、段々自信がなくなってきた。
「嫌いとか言ってごめん。あんなん嘘に決まってる。俺、凜子のこと異性としてすっげぇ好きだし意識してっから。――だから……早く二十歳になって?」
今だって、抱かない宣言が簡単に揺らぎそうで怖くて、この場からすぐさま立ち去ってしまいたくなるぐらいに凜子のこと、――いやらしい意味で抱きしめたくて堪らんねぇんだけど?
言っても信じてもらえねぇかもしんないけどさ。
「――けど……凜子だって……」
潤んだ瞳で俺を見上げてくる凜子の薄く開いた唇に舌を滑り込ませたい衝動を押さえつけるように、俺は視線をふいっと逸らして拗ねたように付け加える。
「さっき俺のこと大っ嫌いって言ったの、取り消してくんね? 結構ショックだったんだけど?」
END(2020/10/06~10/7)
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