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Epilogue

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鳥飼とりかい凜子りんこさん、どうぞ」

 そう名前を呼ばれて立ち上がった際、下腹部からの違和感に立ち止まった私に、私とお腹の我が子のことを心配して「無理はするな」って奏芽かなめさんが言ってくださって。

 そんな奏芽さんに、「はい」って答えながら、
「また少し温かいのが気がして怖くて」
 恥ずかしさにうつむきながらも、小声で正直にそう言ったら、「待ってろ」って言われてしまった。

 一応出がけに下着に新しい生理用品は当てて来たけれど、身体を動かすたびに下腹部からじんわりと温かなものがほんの少しだけ伝い出る感触は、やはり何だか怖い。

 壁にすがるようにして極力動かないように立っていたら、奏芽さんが奥からナース服に身を包んだ女性を連れて戻っていらした。

「歩くと感じで怖いですか?」

 その女性が私に視線を合わせるようにして問いかけてきて、私はコクン、とうなずく。

 胸に「K.Mikimoto」と刺繍の入ったナース服を着た、ゆるふわセミロングをひとつに束ねた彼女を、私は知っている。

 彼女は奏芽さんの先輩、ここの産婦人科の若先生の奥さんだ。

 奏芽かなめさんが式場で、彼女の苗字ではなく下の名前を呼んでいらしたのが何だか親しげでソワソワして。
 けれど、そんな彼女を奏芽さんからガードするみたいにハンサムなご主人がピッタリとくっ付いて牽制けんせいしていらしたのに気付いてホッとしたの。

 お式の際、振る舞われた料理のあれこれをとても幸せそうに頬張る奥さんに、ご主人が瞳を細めて自分のお皿の中身も勧めていらしたのがとても印象的だった。
 その様子を見るとはなしにぼんやり見ていたら、ガチガチに固まっていた緊張が少しだけほぐれるようでありがたくて。


 その、ハムスターみたいな奥さんが、嫁ぎ先が産婦人科だからと、文学部から転向して助産師さんになられたのだというお話を聞いた時には、そのとした雰囲気とのギャップある行動力に、私、ただただ驚かされたの。


 私は結局、大学は方向転換などすることなく文学部を卒業して、そのままゆるゆるとバイトしていた時の延長みたく奏芽かなめさんの病院をお手伝いさせていただいているだけだったから。
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