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Epilogue
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「鳥飼さーん、鳥飼凜子さん、どうぞ」
日中より若干照明が控えめになっているように感じられる白い空間。
夜間受付を済ませて長椅子に座っていたら名前を呼ばれて。
奏芽さんが私の手を握る手に力を込めた。
「立てるか?」
「はい」
身体が思うように動かせなくなってきてからは、こんな風に奏芽さんに労られるように支えられることが時々あって。そのたびに奏芽さんの優しさが嬉しいのと同じくらい照れ臭くて。
でも今日は――今夜だけはそんなこと言っていられそうにない。
立ち上がって奏芽さんに身体を預けるようにしてすり足で恐る恐る少し歩いたら、下腹部から生温かいものがチョロリと溢れ出た気配がして、思わず立ち止まる。
「凜子?」
「あ。だっ、大丈夫です」
慌てて言ったら、
「無理はするな。凜子だけの問題じゃないんだからな?」
そう言われて、慈しむようにお腹に触れられて。
それだけで私はじんわりと幸せな気持ちに満たされる。
初めて奏芽さんと結ばれた日、いつか奏芽さんの赤ちゃんをこのお腹に宿すことが出来たならどんなにか幸せだろう、と夢見たことを思い出す。
***
私と奏芽さんは私が大学4年生の春に、周りから急かされる様に大きなホテルで挙式・披露宴だけ先に済ませた。
私は洋装でも和装でもどちらでもよかったのだけれど、うちの母が和装を見たいとゴネて、奏芽さんは洋装も捨てがたいとおっしゃった。
結果、贅沢にもどちらも着ることになった私は、一着追加するごとに一体どのぐらいの上乗せがあるんだろう?とそればかりが気になって。
奏芽さんのご両親やうちの母から、「こんな時のために親はお金を貯めているのだから気にすることはない」と言い切られてめちゃくちゃ恐縮したのを思い出す。
質素で小ぢんまりとしたお式でいいのに、と半べそをかいた私に、奏芽さんが「一応俺、あの小児科の跡取りだかんな。親の方にも付き合いとか体面とかあんだよ。窮屈だろうけど付き合ってやってくんねぇか?」と諭されてハッとした。
結婚って……家同士のことでもあるんだ。
自分たちの気持ちだけでどうこうしてはいけない部分もあるのだと、奏芽さんに言われるまで気づけなかった子供っぽい自分のことを凄く恥ずかしく思った。
「まぁアレだ。俺がさ、かなり長いこと親を待たせちまったから……そのツケが回ってきてんだよ。ごめんな?」
それなのにそんな私に奏芽さんは優しく「自分のせいだ」と言ってくださって。
日中より若干照明が控えめになっているように感じられる白い空間。
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「立てるか?」
「はい」
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でも今日は――今夜だけはそんなこと言っていられそうにない。
立ち上がって奏芽さんに身体を預けるようにしてすり足で恐る恐る少し歩いたら、下腹部から生温かいものがチョロリと溢れ出た気配がして、思わず立ち止まる。
「凜子?」
「あ。だっ、大丈夫です」
慌てて言ったら、
「無理はするな。凜子だけの問題じゃないんだからな?」
そう言われて、慈しむようにお腹に触れられて。
それだけで私はじんわりと幸せな気持ちに満たされる。
初めて奏芽さんと結ばれた日、いつか奏芽さんの赤ちゃんをこのお腹に宿すことが出来たならどんなにか幸せだろう、と夢見たことを思い出す。
***
私と奏芽さんは私が大学4年生の春に、周りから急かされる様に大きなホテルで挙式・披露宴だけ先に済ませた。
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結果、贅沢にもどちらも着ることになった私は、一着追加するごとに一体どのぐらいの上乗せがあるんだろう?とそればかりが気になって。
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質素で小ぢんまりとしたお式でいいのに、と半べそをかいた私に、奏芽さんが「一応俺、あの小児科の跡取りだかんな。親の方にも付き合いとか体面とかあんだよ。窮屈だろうけど付き合ってやってくんねぇか?」と諭されてハッとした。
結婚って……家同士のことでもあるんだ。
自分たちの気持ちだけでどうこうしてはいけない部分もあるのだと、奏芽さんに言われるまで気づけなかった子供っぽい自分のことを凄く恥ずかしく思った。
「まぁアレだ。俺がさ、かなり長いこと親を待たせちまったから……そのツケが回ってきてんだよ。ごめんな?」
それなのにそんな私に奏芽さんは優しく「自分のせいだ」と言ってくださって。
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