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託された重み

side:Kaname Torikai 1

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 居間で観るとはなしにテレビを観ながら、意識は台所の母子おやこの会話に集中していた。

 凜子りんこが母親とどんな話をするのか、また母親が彼女に何を言うのか、そういうのが気にならなかったと言ったら嘘になる。

 だが、この時の俺はそれより何より凜子がたったひとりの肉親に見せる、俺へ見せる顔とは違った一面を見逃したくなかったんだ。

 と、凜子が母親からお使いを頼まれている声が聞こえてきて。
 凜子がにこやかにそれに応じたのが分かった。

 ――凜子、ひとりで買いもん行けるのか?

 場所が事件のあった現場と離れている生まれ故郷だから、あるいは大丈夫なんだろうか?

 ふとそう思ったけれど、もしそうでなかったらマズイ。
 杞憂きゆうだったらその時だと思って、玄関に向かった凜子を追った。

 ふと見ると、玄関先にしゃがみこんで靴ひもを結ぼうと頑張っているらしい凜子りんこの肩が、小さく震えているのが分かって。

 やはり様子を見にきて正解だったと思ったんだ。

 こんな姿をお袋さんに見られたら、変に思われちまう。

 凜子は母親にあの事件のことをなるべく告げずにいたいと俺に言ったんだ。
 お母さんに心配かけたくないから、と。
 俺はそんな凜子の優しさを、出来る限りつらぬき通させてやりたい。


 俺が一緒に買い物に行くと声をかけたら、凜子が泣きそうな顔をして俺を見上げてきて、俺はここが凜子の実家だというのも忘れて危うく彼女を抱きしめそうになった。

 なんとか肩に手を載せるに留めておいたけれど、危ないところだったと自分でも思う。


***

 凜子りんこの母親に、買い物を任されてもいいと言ってしまった手前、何も聞かずに出るというわけにもいかず。

 俺は凜子に「ちょっと待っててな?」と声をかけて台所に向かった。

 俺の声が聞こえていなかったとは思えないんだけど、お母むかいさんはキッチンで流しの方を向いて突っ立っていて。

「向井、さん?」

 そっと声を掛けたら小さく肩が跳ねたのが分かった。

 その様子に「おや?」と思う。


 向井さんは俺の方を見ると、視線だけで台所の先の部屋についてくるようにうながしてきて。

 俺は何事だろう?と少し怖くなった。
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