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奏芽の覚悟
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「凜子、前からずっと言おうと思ってたんだけどな……。このままここに住めよ」
「え……?」
キッチンで夕飯の支度をしていた私は、奏芽さんの言葉に思わず手を止めて振り返る。
「凜子はもう少し元気になったらいずれあのアパートへ戻るつもりなのかも知れねぇけどさ。あそこに戻らせるのは俺が嫌なんだよ。――解約してねぇから……住めてねぇのに家賃だって払い続けてんだろ?」
――勿体ねぇじゃん?
いつの間にか私のすぐそばまで来て背後に立った奏芽さんに、後ろからギュッと腰を抱き締められる。
「あ、あのっ」
首筋に奏芽さんの吐息がかかってドキドキしてしまう。
「嫌か?」
耳朶に触れるか触れないかの距離でそう問いかけられて、その切なく掠れた低音ボイスに私の心臓は今にも身体から飛び出してしまいそうなくらい早鐘を打つ。
「イヤなわけ……ない、です……」
むしろそうさせて頂けたらどんなにか嬉しいのにって心の片隅でずっと思ってて。
でもそんなこと言うのは奏芽さんに甘えすぎだって思って言えなくて――。
色んな感情がないまぜになって、鼻の奥がツン、と痛くなった。
視界がじわりと涙に滲んで……自分が何故泣きそうになっているのかよく分からなくて混乱する。
「泣くなよ……」
目端を伝って頬を滑り落ちた涙に気づいた奏芽さんが、慌てたようにそこに口付けをくれる。
奏芽さんのその仕草が、また堪らなく私の胸を締め付けて。
私、嬉しくてたまらないんだ。それで感極まって涙が止まらないんだ。
キュン……とうずく胸の痛みに、そう確信した。
「かな、めさっ、……あ、りがとう、ございま……」
言ったら、奏芽さんが私の背後で大きく息を吐いたのが分かって。
割といい雰囲気かなって思っていたけれど、私、何か粗相をして奏芽さんの気分を害してしまった?
不安になって思わず振り返ったら、くるりと身体の向きを変えられて、正面から抱きしめられる。
身長差20センチ以上の壁は、こんな風に強く抱きしめられた時にすごく実感させられてしまう。
私は奏芽さんの腕の中にすっぽり包まれて、奏芽さんしか見えなくなるの。
以前は苦手だったはずの長身男性が、奏芽さんだと安心感に変わるの、すごく不思議。
そういえば初対面の時、奏芽さんのことも背が高くて嫌だなって思ったんだっけ。
奏芽さんの匂いをイヤと言うほど感じて、身体中が……それこそ細胞のひとつひとつに至るまで、奏芽さんで満たされていく気がしてクラクラしてしまう。
私は柑橘系の香りをすり抜けるように香ってくる奏芽さんご自身の、優しくて強い雰囲気の体臭が堪らなく大好きで。
もっともっと私を彼の匂いに染めて欲しいって思ってしまうの。
「え……?」
キッチンで夕飯の支度をしていた私は、奏芽さんの言葉に思わず手を止めて振り返る。
「凜子はもう少し元気になったらいずれあのアパートへ戻るつもりなのかも知れねぇけどさ。あそこに戻らせるのは俺が嫌なんだよ。――解約してねぇから……住めてねぇのに家賃だって払い続けてんだろ?」
――勿体ねぇじゃん?
いつの間にか私のすぐそばまで来て背後に立った奏芽さんに、後ろからギュッと腰を抱き締められる。
「あ、あのっ」
首筋に奏芽さんの吐息がかかってドキドキしてしまう。
「嫌か?」
耳朶に触れるか触れないかの距離でそう問いかけられて、その切なく掠れた低音ボイスに私の心臓は今にも身体から飛び出してしまいそうなくらい早鐘を打つ。
「イヤなわけ……ない、です……」
むしろそうさせて頂けたらどんなにか嬉しいのにって心の片隅でずっと思ってて。
でもそんなこと言うのは奏芽さんに甘えすぎだって思って言えなくて――。
色んな感情がないまぜになって、鼻の奥がツン、と痛くなった。
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「泣くなよ……」
目端を伝って頬を滑り落ちた涙に気づいた奏芽さんが、慌てたようにそこに口付けをくれる。
奏芽さんのその仕草が、また堪らなく私の胸を締め付けて。
私、嬉しくてたまらないんだ。それで感極まって涙が止まらないんだ。
キュン……とうずく胸の痛みに、そう確信した。
「かな、めさっ、……あ、りがとう、ございま……」
言ったら、奏芽さんが私の背後で大きく息を吐いたのが分かって。
割といい雰囲気かなって思っていたけれど、私、何か粗相をして奏芽さんの気分を害してしまった?
不安になって思わず振り返ったら、くるりと身体の向きを変えられて、正面から抱きしめられる。
身長差20センチ以上の壁は、こんな風に強く抱きしめられた時にすごく実感させられてしまう。
私は奏芽さんの腕の中にすっぽり包まれて、奏芽さんしか見えなくなるの。
以前は苦手だったはずの長身男性が、奏芽さんだと安心感に変わるの、すごく不思議。
そういえば初対面の時、奏芽さんのことも背が高くて嫌だなって思ったんだっけ。
奏芽さんの匂いをイヤと言うほど感じて、身体中が……それこそ細胞のひとつひとつに至るまで、奏芽さんで満たされていく気がしてクラクラしてしまう。
私は柑橘系の香りをすり抜けるように香ってくる奏芽さんご自身の、優しくて強い雰囲気の体臭が堪らなく大好きで。
もっともっと私を彼の匂いに染めて欲しいって思ってしまうの。
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