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GPS
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「スマホだけじゃ心配だったから、俺、このコートを凜子にプレゼントしてすぐ、ポケットにこれ、忍ばせておいたんだ。――勝手にすまん」
ってそれを手渡してくれる。
「これ?」
「スマホや財布なんかに付ける小型の紛失防止タグ。Bluetooth接続でタグがどこにあるか見極めるんだけど……タグ自体がGPS搭載してるわけじゃねぇし……有効距離が60mしかねぇから探し当てるのに時間がかかっちまった」
車でうろついていたのでは情報をキャッチし損ねてしまうかも知れないと思って、私のスマホのGPSが止まっていたセレストアから、私のアパートまでの道のりを、このタグ専用の連携アプリを立ち上げたスマホ片手に歩いて下さったらしい。
その際、一応コンビニにも顔を出して私が来ていないことを確認してから、店長に車を停めさせてもらいたい旨などを打診なさったとのことで。
奏芽さんの、筋を通した大人な対応に、私、この人を選んで本当に良かったと思ったの。
外ポケットには寒くて手を入れたことが何度もあるけれど、このコート、内側にもポケットがあったなんて、お恥ずかしながら今の今まで私、知らなかった。
だから、このたかだか3cmあまりの小さなタグの存在も、いま初めて知ったのだけれど。
「元々はな、例えば財布や車のキーにつけといて、それらを置き忘れた時なんかにスマホに通知がくるようにする代物なんだ。もちろん、その通知に気づかず失くした場合も、Bluetoothの有効距離内に入りさえすればアプリで探せる。凜子のスマホに例のGPSアプリを入れてみた手前、あれだと携帯の電源切れたらアウトだなと思っちまって」
そんな時のお守りみたいなつもりで、私のコートの内ポケットに、これを入れておいたらしい。
有効範囲60mでは、そばにいる時ぐらいしか反応しないし、GPSが搭載されているわけではないので無断で監視してることにはならないと自分に言い聞かせて、私には言わなかったみたい。
私が知っていたら、有事の際にソワソワして相手に気付かれるかもしれないとも思ったから、と奏芽さんったらバツが悪そうに鼻の頭を掻くの。
「何にしても……その、勝手に……すまん」
言いながら申し訳なさそうに、
「むかし親父がさ、妹のスマホに音芽に無断で位置情報通知するアプリを入れてるの知ったとき、俺、ぶっちゃけ軽く引いたんだよ。けど凜子のコートにこんなん仕込んでる時点で――やっぱ俺もあの人の血、引いてんだよなって思っちまって。――気持ち悪いやつでごめんな」
って再度謝るの。
「奏芽さん……」
60mしか有効範囲がなくて……その上GPS機能さえ搭載していないとなると、監視されているとは言い難いと思うの。
それに……奏芽さんの言う通り私、これの存在を知らなかったから変にコートのことを気にしないでいられた、とも思う。
「気持ち悪くなんてないです。……むしろ奏芽さんが彼氏で本当に良かったって思います……。私のことを大切に思って下さって、ありがとうございます」
実際、この小さなタグがなかったら、私は今、奏芽さんのことをこんな風に正面から見つめることなんて出来なかった気がするの。
あの時、もう少し奏芽さんが来てくださるのが遅れて……あの男に初めてを奪われてしまっていたとしたら――。
私はきっと自分を許せなかった。
奏芽さんがあんなに大切にしてくれた自分の純潔を守りきれなかったこと、責めて責めて責め抜いたと思う。
だから――。
そうならなかったのは奏芽さんの先見の明のお陰だって心の底から思ったの。
「奏芽さん。私、これ、まだ持っててもいいですか?」
忘れ物紛失防止の小さなタグ。
私が奏芽さんのそばにいると彼のスマホと接続されて、60m以上離れると私は彼の近くから離れたのだと彼に通知される。
なんだか奏芽さんと“繋がっている”と思えるタグだ。
今回この小さなタグが、私と奏芽さんを再会させてくれたんだと思うと、手放したくなくて。
「凜子、こういうの、重くて気持ち悪くねぇか?」
不安そうに問いかけられて、私はふるふると首を振る。
「むしろ嬉しいです。――えっと……私、奏芽さんにならどんなに重くされても気にならないです」
――変ですよね?
そう付け加えて、ふふっと笑ったら「バカなことを」ってそっぽを向かれた。
ね、奏芽さん、照れてる?
ってそれを手渡してくれる。
「これ?」
「スマホや財布なんかに付ける小型の紛失防止タグ。Bluetooth接続でタグがどこにあるか見極めるんだけど……タグ自体がGPS搭載してるわけじゃねぇし……有効距離が60mしかねぇから探し当てるのに時間がかかっちまった」
車でうろついていたのでは情報をキャッチし損ねてしまうかも知れないと思って、私のスマホのGPSが止まっていたセレストアから、私のアパートまでの道のりを、このタグ専用の連携アプリを立ち上げたスマホ片手に歩いて下さったらしい。
その際、一応コンビニにも顔を出して私が来ていないことを確認してから、店長に車を停めさせてもらいたい旨などを打診なさったとのことで。
奏芽さんの、筋を通した大人な対応に、私、この人を選んで本当に良かったと思ったの。
外ポケットには寒くて手を入れたことが何度もあるけれど、このコート、内側にもポケットがあったなんて、お恥ずかしながら今の今まで私、知らなかった。
だから、このたかだか3cmあまりの小さなタグの存在も、いま初めて知ったのだけれど。
「元々はな、例えば財布や車のキーにつけといて、それらを置き忘れた時なんかにスマホに通知がくるようにする代物なんだ。もちろん、その通知に気づかず失くした場合も、Bluetoothの有効距離内に入りさえすればアプリで探せる。凜子のスマホに例のGPSアプリを入れてみた手前、あれだと携帯の電源切れたらアウトだなと思っちまって」
そんな時のお守りみたいなつもりで、私のコートの内ポケットに、これを入れておいたらしい。
有効範囲60mでは、そばにいる時ぐらいしか反応しないし、GPSが搭載されているわけではないので無断で監視してることにはならないと自分に言い聞かせて、私には言わなかったみたい。
私が知っていたら、有事の際にソワソワして相手に気付かれるかもしれないとも思ったから、と奏芽さんったらバツが悪そうに鼻の頭を掻くの。
「何にしても……その、勝手に……すまん」
言いながら申し訳なさそうに、
「むかし親父がさ、妹のスマホに音芽に無断で位置情報通知するアプリを入れてるの知ったとき、俺、ぶっちゃけ軽く引いたんだよ。けど凜子のコートにこんなん仕込んでる時点で――やっぱ俺もあの人の血、引いてんだよなって思っちまって。――気持ち悪いやつでごめんな」
って再度謝るの。
「奏芽さん……」
60mしか有効範囲がなくて……その上GPS機能さえ搭載していないとなると、監視されているとは言い難いと思うの。
それに……奏芽さんの言う通り私、これの存在を知らなかったから変にコートのことを気にしないでいられた、とも思う。
「気持ち悪くなんてないです。……むしろ奏芽さんが彼氏で本当に良かったって思います……。私のことを大切に思って下さって、ありがとうございます」
実際、この小さなタグがなかったら、私は今、奏芽さんのことをこんな風に正面から見つめることなんて出来なかった気がするの。
あの時、もう少し奏芽さんが来てくださるのが遅れて……あの男に初めてを奪われてしまっていたとしたら――。
私はきっと自分を許せなかった。
奏芽さんがあんなに大切にしてくれた自分の純潔を守りきれなかったこと、責めて責めて責め抜いたと思う。
だから――。
そうならなかったのは奏芽さんの先見の明のお陰だって心の底から思ったの。
「奏芽さん。私、これ、まだ持っててもいいですか?」
忘れ物紛失防止の小さなタグ。
私が奏芽さんのそばにいると彼のスマホと接続されて、60m以上離れると私は彼の近くから離れたのだと彼に通知される。
なんだか奏芽さんと“繋がっている”と思えるタグだ。
今回この小さなタグが、私と奏芽さんを再会させてくれたんだと思うと、手放したくなくて。
「凜子、こういうの、重くて気持ち悪くねぇか?」
不安そうに問いかけられて、私はふるふると首を振る。
「むしろ嬉しいです。――えっと……私、奏芽さんにならどんなに重くされても気にならないです」
――変ですよね?
そう付け加えて、ふふっと笑ったら「バカなことを」ってそっぽを向かれた。
ね、奏芽さん、照れてる?
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