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*ようこそ我が家へ
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「違うよ、凜。明真さん、ごめんなさい、だ」
頬を鷲掴みにされた衝撃で、絶対にこぼしたくなかった涙がポロリと両頬を伝って、私は悔しさに唇を噛む。
その間も手にしたスタンガンを散らつかされて、その痛みを知っている私は、どうしても恐怖に支配されてしまうの。
「あ、すまさ……ごめ、んなさい」
私、悪いことなんて何もしていないのに。
どうして謝らなきゃいけないの?
奏芽さん、お願い。一刻も早く……助けに……きて……。
***
金里と名乗った男が、私をここに連れてきて初めてそばを離れて、私はほんの少し肩の力を抜いた。
力任せに掴まれた頬がジンジンと痛んで、でもそのお陰で辛うじて意識を保てている気がするの。
今、何時だろう。
ここに来てどのぐらい経ったんだろう。
ノロノロと身体を起こして、腕時計に視線を落とす。
携帯を持つようになっても、腕時計で時間を確認する癖は抜けなくて。
時刻は8時40分になろうかというところ。
いつもならとっくに大学に到着していて、奏芽さんに「着きました」と連絡を入れている頃だ。
行ってきます、のメッセージはいつも通りにしたから、もしかしたら奏芽さん、私の異変に気付いてくださった頃かもしれない。もっと言えば、四季ちゃんだって!
携帯……。
玄関に置き去りにされたままのはずのそれは、多分電源、切られていないはずだ。
奏芽さんが先日入れた追跡アプリを立ち上げてくださったなら……望みは十分にある。
コートの前をギュッと合わせて、そんなことを思う。
暖房が少しずつ部屋の温度を上げているはずだけれど、私は一向に身体が暖まって来なくて――。
そればかりか、心が冷えるのに比例するみたいにどんどん体温を奪われてしまっている気さえするの。
「ねぇ凜、これ、なんだと思う?」
部屋の中には入って来ないで、私から一定の距離をとったまま出入り口の所に佇んで、男が問うてくる。
さっき、無理矢理この男に屈服させられて、私の心はズタボロだ。このうえ私から、さらに何を奪おうというんだろう。
そう思いながらぼんやりと彼の方を見やると、
「――っ!」
声にならない悲鳴が漏れた。
男が手にしていたのは私のスマホで。
今、ここに囚われている私にとって、唯一の希望の光――。
「凜の大事なもの、壊したりはしないからそんなに驚かないで? けどさ、GPSとかで追跡されたら面倒だし、電源は切らせてもらってるよ?って。それだけは言っておこうと思って」
にっこり笑って告げられた言葉に、私は足元が瓦解して、奈落の底に突き落とされてしまったような気がした。
電源を切られてしまったら……あのアプリは役に立たない。奏芽さんは、私を探せない――!
頬を鷲掴みにされた衝撃で、絶対にこぼしたくなかった涙がポロリと両頬を伝って、私は悔しさに唇を噛む。
その間も手にしたスタンガンを散らつかされて、その痛みを知っている私は、どうしても恐怖に支配されてしまうの。
「あ、すまさ……ごめ、んなさい」
私、悪いことなんて何もしていないのに。
どうして謝らなきゃいけないの?
奏芽さん、お願い。一刻も早く……助けに……きて……。
***
金里と名乗った男が、私をここに連れてきて初めてそばを離れて、私はほんの少し肩の力を抜いた。
力任せに掴まれた頬がジンジンと痛んで、でもそのお陰で辛うじて意識を保てている気がするの。
今、何時だろう。
ここに来てどのぐらい経ったんだろう。
ノロノロと身体を起こして、腕時計に視線を落とす。
携帯を持つようになっても、腕時計で時間を確認する癖は抜けなくて。
時刻は8時40分になろうかというところ。
いつもならとっくに大学に到着していて、奏芽さんに「着きました」と連絡を入れている頃だ。
行ってきます、のメッセージはいつも通りにしたから、もしかしたら奏芽さん、私の異変に気付いてくださった頃かもしれない。もっと言えば、四季ちゃんだって!
携帯……。
玄関に置き去りにされたままのはずのそれは、多分電源、切られていないはずだ。
奏芽さんが先日入れた追跡アプリを立ち上げてくださったなら……望みは十分にある。
コートの前をギュッと合わせて、そんなことを思う。
暖房が少しずつ部屋の温度を上げているはずだけれど、私は一向に身体が暖まって来なくて――。
そればかりか、心が冷えるのに比例するみたいにどんどん体温を奪われてしまっている気さえするの。
「ねぇ凜、これ、なんだと思う?」
部屋の中には入って来ないで、私から一定の距離をとったまま出入り口の所に佇んで、男が問うてくる。
さっき、無理矢理この男に屈服させられて、私の心はズタボロだ。このうえ私から、さらに何を奪おうというんだろう。
そう思いながらぼんやりと彼の方を見やると、
「――っ!」
声にならない悲鳴が漏れた。
男が手にしていたのは私のスマホで。
今、ここに囚われている私にとって、唯一の希望の光――。
「凜の大事なもの、壊したりはしないからそんなに驚かないで? けどさ、GPSとかで追跡されたら面倒だし、電源は切らせてもらってるよ?って。それだけは言っておこうと思って」
にっこり笑って告げられた言葉に、私は足元が瓦解して、奈落の底に突き落とされてしまったような気がした。
電源を切られてしまったら……あのアプリは役に立たない。奏芽さんは、私を探せない――!
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