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お引っ越し

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 私、元々そんなに要領がいいわけじゃない。

 成績がそこそこの位置をキープしているのだって、努力をした結果だからに他ならないわけで、恐らくやらなくなったらそれなりの成果しか出せないの。
 何もしなくても何でも卒なくこなせてしまう、いわゆる天才気質の奏芽かなめさんと違って、私はコツコツ積み上げていく典型的な努力家タイプ。

 家を出て一人暮らしを始めてしまった分、お母さんに負担をあまりかけたくなくてバイトをして生活費を工面しているものの、仕事と勉強の両立というのは自分が考えていた以上に大変で。

「やっぱり……無理……なのかな」

 2年生になれば、1年生の時ほど沢山の講義を取らなくて良くなるのは確かなはず。
 でも、それと同時に卒論を視野に入れた準備も始めておいた方がいいわけで。

 ほぉっと溜め息をついたら、四季しきちゃんに心配されてしまった。

「そんなに無理してまで始めたい勉強って何なの?」

 聞かれて、自分でもそれを目標に掲げていいのか迷いのあった私は、思わず言葉に詰まってしまった。

「そ、それは……」

 頭の中に思い浮かんだとある資格を、私は四季ちゃんに言うことができなくて。

 文学部に所属している私が、唯一奏芽かなめさんと接点を持てそうな気がするその資格は、別に奏芽さんから何か言われたから取りたいと思ったわけですらない。

 ただ、霧島きりしまさんご夫妻――というか音芽おとめさんと話していて……奏芽さんと音芽さんのお母様がピアノ講師をしながらやはりその資格を取得なさったと知ったら居ても立ってもいられなくなってしまったというか。

(私、勝手に奏芽さんの未来に自分の居場所を作ろうとしてる……?)

 そのことに気付いたら、そんな計算高い自分を表に出すのははばかられて。

「その……資格、沢山持ってた方が将来有利かなって思っただけ、なの」

 どこか歯切れの悪い私の言葉に、でも四季ちゃんはそれ以上突っ込んで聞かないでいてくれた。

 基本的にガンガン言いたいことを言うように見える四季ちゃんだけど、相手の感情の機微は繊細にキャッチしてくれるところがある。
 こちらが言いにくいことは、話せるようになるまで待ってくれるのもそんな四季ちゃんならではの心遣いで。
 そういうところも含めてやはり奏芽さんと似ている気がするの。
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