【完結】【R18】私のおさげをほどかないで!

鷹槻れん(鷹槻うなの)

文字の大きさ
上 下
106 / 283
お互いのスマホに

1

しおりを挟む
***

 バイトが終わる直前。
 奏芽かなめさんがセレストア店内に入っていらして、レジにいた私に適当に選んだっぽい商品を渡しながら
凜子りんこ、夕方は迎えに行けなくて悪かったな」
 って謝るの。

 その会計を終えた私に、谷本くんが「もう終わりの時間だし、僕のことは気にせず帰りなよ」って言ってくれて。
 交代の人も入ってきてくれたし、いつもなら谷本くんと一緒に裏に入る所だけど、今日はその言葉に素直に甘えて、そそくさと先に行かせてもらって。
 制服を脱ぐ間も惜しくて、そのままコートを羽織った。
 今日はアパートに戻らず、大学から直接ここへ送って頂いたので、荷物がいつもより多くて重い。
 でも、そんなのも気にならないぐらい、心が浮き足立って。

「谷本くん、有難う。――お先に失礼します」
 
 ちょうど私と入れ替わりに裏に入って来た谷本くんにすれ違いざまそう言って、裏口からではなく店舗側から外を目指す。……と、休憩室から出てきた私に気付いた奏芽さんが、すぐにそばまで来てくれて。
 まだお店の中だというのに荷物を持ってくれるなり、空いた方の手でギュッと手を握られてしまった。

「あ、あのっ」
 さすがに恥ずかしくて声をかけたけれど、奏芽さんは聞こえないみたいに振り返らないまま、私の手を引っ張って車を目指して。
 私は少し小走りで、そんな彼の後をついて行ったの。

 車に乗り込むなり運転席から伸びてきた奏芽さんの腕の中にギュッと抱きしめられて。
「――怖い思い、しなかったか?」
 って問いかけられた。

 絞り出すようなその声が切なくて苦しくて。
 私、大好きな奏芽かなめさんにこんな声を出させてしまうことの方が、自分が昼間に感じた恐怖より数倍辛く感じられた。

「だっ、大丈夫です。夕方も霧島きりしまさんご家族にここまで送っていただきましたし、バイト中も谷本くんがずっと気遣ってくれて1人にはなりませんでした」

 努めて明るい声音でそう答えたら、奏芽さんが、
「ずっと付いててやれなくてごめんな」
 って言うの。

 私は彼の言葉に正直驚いてしまった。

「そ、そんなの当たり前じゃないですか。奏芽さんには奏芽さんの生活があるんですから」

 これは本当の話。

 だってそうでしょう?
 私のために、もし奏芽さんがお仕事に穴とか開けてしまったら、彼のことを頼りにしている子供達が困ってしまうもの。

「――それでも! ……俺、好きな女も自分で守れないってのがさ、すげぇ嫌なんだよ」

 いつになく奏芽さんが弱気な気がして。
 耳元でつぶやかれた声が、私の胸をギュッと締め付けてくる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

鳴宮鶉子
恋愛
辣腕同期が終業後に淫獣になって襲ってきます

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...