【完結】【R18】私のおさげをほどかないで!

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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気のせい?

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 奏芽かなめさんとお付き合いさせていただくようになったのが、夏。

 クリスマスやお正月といった、恋人同士には堪らない行事を経て、今は1月初旬です。

 厚着しても身体の芯から冷え込んでくるような寒さの中、モコモコに着込んだ完全武装で私はバイトに向かっている。

 ワインレッドのタートルネックセーターは、マフラーを巻かなくても首元をほかほか温めてくれる優れもの。
 それに、タータンチェックのワイドパンツを合わせて、ミディアム丈の白いダッフルコートを羽織る。
 本当は前ボタンは全て開けていた方が可愛いのは分かっているけれど、寒くて無理なので上から下まで全てのトグルボタンをきっちり留めて、しっかり寒風をシャットアウト。
 足元は、くるぶし丈のワイドパンツの下に、厚手のタイツを履いて、ショートブーツで防寒に努めていて。
 タートルネックで保護された首には、さらに当然のようにマフラーを巻いているの。

 奏芽さんがお仕事のないときならば、寒がりの私を暖かい車で送り迎えしてくれるんだけど、今日は連休明けで患者さんが多いらしくて無理で、頑張って歩いている感じ。
 奏芽さんと出会う前はこれが普通だったのに、ダメだなぁ。甘やかされるとどんどん身体はそれに慣れてしまうみたい。

「うー、寒いっ」

 もふもふの手袋に包まれた手で、奏芽さんからクリスマスにプレゼントしていただいたコートの襟元をかき合わせるようにして身体を縮こまらせると、鈍色にびいろの空を見上げた。

 今にも雪が降り出しそう!

 アパートからバイト先まで徒歩5分足らずなのに、歩く距離が短すぎるのが逆にいけないのかな。
 ちっとも身体が温まってこないの。

 バイトモードできつめに編んであるおさげのせいで、奏芽かなめさんとデートする時よりも頬に風が当たりやすいのもいけないのかもしれない。

 そんな些細な差を考えてしまうくらいには、私、寒さ慣れしていなくて。だって私の地元、ここより冬がはるかに暖かかった気がするんだもの。

***

 バッグの中でピロンとメッセージアプリが新着メッセージの着信を知らせてきて、途端「奏芽さんかな?」とソワソワする。
 なのにモコモコに着込んだ服と、手袋のせいでうまくカバンからスマホが取り出せなくて。

 あーん、と思いながらも片手だけ手袋を外してスマホを操作したら、瞬く間に指先が冷えてかじかんだ。

凜子りんこ、バイト、何時に終わる?”

 でも、不思議と奏芽さんからのメッセージを見ただけで、心はほかほかと温まって。

“21時には終わると思います”

 手に一生懸命温かい息を吐きかけながら返信をしたら、すぐに既読がついた。

 奏芽さん、お仕事大丈夫なの?
 まだ診察中のはずなのに。

 そんなことを思いながらも、隙間時間を見つけて奏芽さんが私に時間を割いてくれることが嬉しくて、ついつい頬が緩む。
 以前の私ならこんな不真面目なことを許せるなんてあり得ないと思う。恋ってある意味怖い。
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