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あまみや

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 黒々とした御影石みかげいしのタイルが床に敷き詰められた店内には、カウンター席が5席。
 それとは別に、2人向けの個室がひとつあるきりなのだと奏芽さんが教えてくれた。
 満席時には、店主の奥さまが個室への料理を運んでくださったりと、お手伝いをなさるらしい。
 個室に関しては完全予約制になっているそうで、それは奥様の都合がつけられるか否かが関与してくるためなのだと奏芽さんが笑う。

 従業員を雇わず、広告も打たず、表に看板さえも出さずに、知る人ぞ知るというスタンスで細々とやっているところが雨宮あの男らしいのだと奏芽さんに耳打ちされて、なるほどな、と思ってしまった。

***

「よ、雨宮あまみや。――予告通り来たぞ」

 私たちが入店した気配に、板場の中からチラッとこちらに視線を流してきた男性に、奏芽かなめさんが気やすげに声を掛けた。

 店内には私たちの他にはお客さんの姿は見えなくて、本当に入っても良かったのかな?とドキドキしてしまう。

「何だ、本当に連れがいるのか」

 私の方を見て眉間に皺を寄せる男性に、何となくとがめられた気がして、思わず奏芽さんの背後に隠れる。

「おい、そんな無愛想な顔で見てくるなよ。彼女が怖がってんだろ」

 奏芽さんの言葉に、店主さんはバツが悪そうにふっと視線を落とすと、「申し訳ない」と素直に謝って下さって。
 その生真面目さに、自分と近しい気配を感じた私は、少しだけ緊張の糸が緩む。

鳥飼とりかいがここに誰かを連れてきたことなんて、俺がここを開店して以来初めてだったもので……ついまじまじと見てしまった。――すまない」

 朴訥ぼくとつ、という言葉がしっくりくる人だな、と思った。

 長めの金髪がキラキラと目に眩しくて、飄々とした雰囲気の奏芽さんとは対照的に、雨宮さんは黒髪・短髪に、キリッとした少し濃いめの眉毛。
 髪の毛も、板前然とした白の和帽子から出ているところは綺麗に刈り上げられていて、とてもお堅そうに見える。
 七分袖の真っ白な法被はっぴ姿も、如何にもキチッとしていて、謹厳きんげんそのものに見えた。

 奏芽かなめさんが軟派なら、目の前の彼――雨宮あまみやさんは硬派代表のようで。

「だから。電話でも何度も言っただろ。今日は連れが一緒だからって」

 奏芽さんが溜め息混じりに雨宮さんに言えば、「何度言われたって実際の当たりにしないと信じ難かったんだから仕方ないだろう」

 吐息を落としながら、「本当に個室じゃなくてカウンターでいいのか? 今なら嫁もいるし――」と心配そうに私をちらりと見遣った。

「ああ、カウンターでいい。――まだ俺、彼女から付き合ってもいいってOKもらってないからな。個室に2人きりはまずいだろ」

 奏芽さんのセリフに、今度こそ雨宮さんが瞳を見開いたのが分かった。
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