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曖昧な関係
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「何で笑うんだよ」
ムスッとして言われて、
「だって……奏芽さんとそう言うの、何だか結びつかなくて」
クスクス笑いながら言ったら、「まぁ確かに基本は外食だしな」ってその方がストンと落ちることを言われた。
「いつも外食って味気ない感じしません?」
思わず言ってしまってから、「あ」って思った。
「まぁな。いつか凜子の手料理食わしてもらえたら嬉しいな?」
案の定そう言われて、ドクンッと心臓が跳ねる。
「あ、あのっ。だったら今度奏芽さんにもお弁当……」
言いかけて、彼氏でもないのに?って気付いて思わず口籠る。
「何で言いよどんだか当ててやろっか?」
奏芽さんが前方を見つめたまま何でもないことのようにそうつぶやいて、私は思わず「ダメっ」って彼の方を向いて言ってしまった。
「何でダメなんだよ?」
奏芽さんがちらりと私に視線を流したのが分かって、じんわり涙目になっているのに気付かれたんじゃないかとソワソワする。
「ごめんなさい、私がはっきりしてないから……です」
奏芽さんに、付き合ってもいない相手に軽々しくお弁当作りを提案してしまうような軽率な女だと思われたくなかった、って言ったら笑われるかな。
きっと口にするのを阻止したからって心の中でそう思われてしまったら意味のないことなのに、そうだと明言されるよりはマシだって思ってしまって。
***
「――泣くなよ凜子」
しばらく沈黙が続いて、車が赤信号で停車したのを見計らったみたいに、奏芽さんがポツンとつぶやいた。
「……俺も、さ。年甲斐もねぇ恥ずかしいこと言っていいか?」
今まで私の方をあまり見ようとしなかったのに、しっかりと視線を合わせてきて、ついでに腿の上に載せていた手をギュッと握られた。
驚いて瞳を見開いた瞬間に、限界まで溜まっていた涙がポロリとこぼれ落ちる。
そのことに気づいただろうに、奏芽さんは敢えて何も言わなくて……そのまま話を続けてくれた。
「さっき……凜子が俺に脈があるかもって教えてくれただろう?」
言われて涙でぼんやり霞んだ視界のまま、小さく首肯する。頭を動かした途端、またポトリと涙が落ちる。
「俺さ、こんなだから結構沢山の女と付き合ってきたわけ」
言われた瞬間、言いようのないモヤモヤがこみ上げてきて、涙目のまま思わず握られた手を引こうとしたけれど無理で。
「まぁ、怒るなよ。過去の話だ」
ってそういうことをサラリと言えてしまえるところが嫌なんだと、何で気づけないんだろう。バカっ!
ムスッとして言われて、
「だって……奏芽さんとそう言うの、何だか結びつかなくて」
クスクス笑いながら言ったら、「まぁ確かに基本は外食だしな」ってその方がストンと落ちることを言われた。
「いつも外食って味気ない感じしません?」
思わず言ってしまってから、「あ」って思った。
「まぁな。いつか凜子の手料理食わしてもらえたら嬉しいな?」
案の定そう言われて、ドクンッと心臓が跳ねる。
「あ、あのっ。だったら今度奏芽さんにもお弁当……」
言いかけて、彼氏でもないのに?って気付いて思わず口籠る。
「何で言いよどんだか当ててやろっか?」
奏芽さんが前方を見つめたまま何でもないことのようにそうつぶやいて、私は思わず「ダメっ」って彼の方を向いて言ってしまった。
「何でダメなんだよ?」
奏芽さんがちらりと私に視線を流したのが分かって、じんわり涙目になっているのに気付かれたんじゃないかとソワソワする。
「ごめんなさい、私がはっきりしてないから……です」
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きっと口にするのを阻止したからって心の中でそう思われてしまったら意味のないことなのに、そうだと明言されるよりはマシだって思ってしまって。
***
「――泣くなよ凜子」
しばらく沈黙が続いて、車が赤信号で停車したのを見計らったみたいに、奏芽さんがポツンとつぶやいた。
「……俺も、さ。年甲斐もねぇ恥ずかしいこと言っていいか?」
今まで私の方をあまり見ようとしなかったのに、しっかりと視線を合わせてきて、ついでに腿の上に載せていた手をギュッと握られた。
驚いて瞳を見開いた瞬間に、限界まで溜まっていた涙がポロリとこぼれ落ちる。
そのことに気づいただろうに、奏芽さんは敢えて何も言わなくて……そのまま話を続けてくれた。
「さっき……凜子が俺に脈があるかもって教えてくれただろう?」
言われて涙でぼんやり霞んだ視界のまま、小さく首肯する。頭を動かした途端、またポトリと涙が落ちる。
「俺さ、こんなだから結構沢山の女と付き合ってきたわけ」
言われた瞬間、言いようのないモヤモヤがこみ上げてきて、涙目のまま思わず握られた手を引こうとしたけれど無理で。
「まぁ、怒るなよ。過去の話だ」
ってそういうことをサラリと言えてしまえるところが嫌なんだと、何で気づけないんだろう。バカっ!
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