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相手のことを知らないのはどっち?

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「え……?」

 奏芽かなめさんが何を言ったのか一瞬理解できなくて、思わず小さく声を落とす。

「今すぐ返事しろとは言わねぇよ。凜子りんこにも色々あんだろ。整理しないといけないこと」

 言って、「ほら、また食べるの止まってんぞ」とたしなめられる。

 でも今、食べるどころじゃないって思わないところが奏芽さんらしいというか。

「あ、あの……本気なんですか?」

 そもそも奏芽さんは私のこと、何にも知らないのに。

 彼が知っている私の情報といったらセレストアコンビニでバイトをしている近くの大学の女子大生で名前が向井凜子りんこってことぐらい。
 おさげで、馬鹿みたいに堅物で気が強くて可愛げがない。
 そんな情報しかないはずの私を、どうしてそんな対象として見られるんだろう?

「馬鹿な質問するなぁ、凜子。前から聞いてみたかったんだけどさ、逆に凜子は俺のことどんな奴だと思ってんの?」

 聞かれて、私も言葉に詰まる。

 私が奏芽さんのことで知っていることは鳥飼とりかい奏芽かなめというフルネーム。
 それから近所の小児科のお医者さんで、幼なじみと結婚している妹さんがいて、姪っ子の名前は和音かずねちゃん。
 見た目がチャラくて女性関係も乱れ気味?
 基本意地悪でワガママで自分勝手だけど、ふとした時にとても優しくてドキッとさせられる。

「――俺様気質の……チャラ男?」
 恐る恐る第一印象を話したら「うっわ、ひでぇ」って笑われた。

「まぁ、でもそれ、間違いじゃねぇから否定はしないわ」

 クスクス笑いながら、
年齢としは今年33な。凜子りんこよりひと回り以上うえ……になんのか――」
 言って、「もしかして凜子、まだ十代かよ」ってつぶやいてから、「年の差はまぁこの際目ぇつぶれ」とか……相変わらず勝手な人。

「仕事は知ってるよな? 凜子のバイト先の近くの小児科。あれ、親父が院長やってんだけど、俺は一応そこの、副院長で……周りからは若先生って呼ばれてる」
 そこで自嘲気味に笑って、「凜子からしたらどこが若いんだよって感じだろーけど」って……。
 目、つぶれって言っておいて気にしてるの、奏芽さんじゃん。

「私、年のことは別に気になりませんけど」
 思わずムスッとした顔で言ってしまってから、しまった……って思ったけど後の祭りだった。

「そっか。気にならねぇんなら良かった」
 ニッと意地悪く笑われて、もしかして誘導尋問に引っ掛かった?って思ってしまった。
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