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Prologue
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一体なにがどうなって、私はいま大嫌いだったはずの彼とともにベッドにいるんだろう。
「なぁ凜子。――髪、ほどくぞ?」
ふたつ分けの三つ編み――いわゆる〝おさげ〟――は私のトレードマーク。
それをほどかせろ、と私に馬乗りになっている男が言った。
束ねられるくらい髪が伸びてから今まで、誰にもそれをほどいたところなんて見せたことない。
おろし髪を見せるのは、自分のなかの女をアピールしているみたいで……何だか恥ずかしいと思ってしまって。
子供の頃からずっと、私は人前に出るとなると慣れ親しんだ三つ編み姿しか披露したことがないのだ。
小学生の頃、クラスの男子に髪の毛を引っ張られて、髪留めを外されたことがある。
ほどけてほぐれたウェーブのかかった腰まで届く髪の毛に、私はすごく恥ずかしくてだらしない姿になった気持ちがしたの。
一生懸命自分で髪を束ねてみたけれど、不器用だった私がやったそれはとても汚くて。
帰宅後お母さんに「ボサボサでみっともない」って叱られて、すぐさま結びなおされた。
それ以来、人前でおさげをはずしてはイケナイと言う想いは一層強固になった。
「こっ、このままでも……! っていうか、出来ればど、どこにもっ……さわらないで……欲しいですっ」
そのことを思い出して、この期に及んで私はこういうことをするのはやはりやめておきませんか?と彼を必死で見上げたら、「却下。結んであったら引っ張りたくなるし、さすがにここまで来て手を出さないとか、そんな選択肢選ぶヤツがいたらアホだと思うわ」とにべもなく返された。
「なぁ凜子、いい加減覚悟を決めて、俺にすべて任せろって。痛くしないとは言わねぇけどさ。絶対俺は後悔しないし……凜子と気持ちよくなれる自信があるんだよ」
言われた瞬間、恥ずかしいことさらりと言わないで!って思った。
でも、それが彼――鳥飼奏芽という男なんだから仕方がない、とも思ったの。
「年上らしく、初めてのときぐらい優しくしてやるよ、とか言ってくれてもいいじゃないですかっ」
あんまりにも勝手な言い分に、段々腹が立ってきて、キッと睨みつけながらそう言ったらクスクスと笑われた。
「優しくして欲しいなら自分からそう言えよ。こういうときくらい俺、素直な凜子が見てみたいんだけどな?」
言って、いつもしているみたいに、私を引き寄せるようにギュッと髪の毛を引っ張てきて。
彼は髪を引っ張り上げたついでに、過去にたまたま一度だけ外れたことがあるのを除いて――決して意図的に外そうとはしてこなかった、髪ゴムを取ってしまった。
「ほら、おねだりしてみ?」
ほどかれてかき乱されて……顔にかかってきたゆるいウェーブのかかった髪に触れられて。ほどいていいなんてまだ言ってないのに!ってそわそわしたけれど。
考えてみたら、いつだって彼はやると決めたら強引にでもことを進める人だったと思い至った。
そう、初めて出会ったあの日から今日までずっと――。
だから私はこの人に今でも変わらず敵わないし、今でも変わらず振り回されっぱなしなの。
「なぁ凜子。――髪、ほどくぞ?」
ふたつ分けの三つ編み――いわゆる〝おさげ〟――は私のトレードマーク。
それをほどかせろ、と私に馬乗りになっている男が言った。
束ねられるくらい髪が伸びてから今まで、誰にもそれをほどいたところなんて見せたことない。
おろし髪を見せるのは、自分のなかの女をアピールしているみたいで……何だか恥ずかしいと思ってしまって。
子供の頃からずっと、私は人前に出るとなると慣れ親しんだ三つ編み姿しか披露したことがないのだ。
小学生の頃、クラスの男子に髪の毛を引っ張られて、髪留めを外されたことがある。
ほどけてほぐれたウェーブのかかった腰まで届く髪の毛に、私はすごく恥ずかしくてだらしない姿になった気持ちがしたの。
一生懸命自分で髪を束ねてみたけれど、不器用だった私がやったそれはとても汚くて。
帰宅後お母さんに「ボサボサでみっともない」って叱られて、すぐさま結びなおされた。
それ以来、人前でおさげをはずしてはイケナイと言う想いは一層強固になった。
「こっ、このままでも……! っていうか、出来ればど、どこにもっ……さわらないで……欲しいですっ」
そのことを思い出して、この期に及んで私はこういうことをするのはやはりやめておきませんか?と彼を必死で見上げたら、「却下。結んであったら引っ張りたくなるし、さすがにここまで来て手を出さないとか、そんな選択肢選ぶヤツがいたらアホだと思うわ」とにべもなく返された。
「なぁ凜子、いい加減覚悟を決めて、俺にすべて任せろって。痛くしないとは言わねぇけどさ。絶対俺は後悔しないし……凜子と気持ちよくなれる自信があるんだよ」
言われた瞬間、恥ずかしいことさらりと言わないで!って思った。
でも、それが彼――鳥飼奏芽という男なんだから仕方がない、とも思ったの。
「年上らしく、初めてのときぐらい優しくしてやるよ、とか言ってくれてもいいじゃないですかっ」
あんまりにも勝手な言い分に、段々腹が立ってきて、キッと睨みつけながらそう言ったらクスクスと笑われた。
「優しくして欲しいなら自分からそう言えよ。こういうときくらい俺、素直な凜子が見てみたいんだけどな?」
言って、いつもしているみたいに、私を引き寄せるようにギュッと髪の毛を引っ張てきて。
彼は髪を引っ張り上げたついでに、過去にたまたま一度だけ外れたことがあるのを除いて――決して意図的に外そうとはしてこなかった、髪ゴムを取ってしまった。
「ほら、おねだりしてみ?」
ほどかれてかき乱されて……顔にかかってきたゆるいウェーブのかかった髪に触れられて。ほどいていいなんてまだ言ってないのに!ってそわそわしたけれど。
考えてみたら、いつだって彼はやると決めたら強引にでもことを進める人だったと思い至った。
そう、初めて出会ったあの日から今日までずっと――。
だから私はこの人に今でも変わらず敵わないし、今でも変わらず振り回されっぱなしなの。
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