アンティークショップ幽現屋

鷹槻れん(鷹槻うなの)

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かけて、其れ切り

帰宅

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 見た目以上にずっしりと重いウサギの五徳ごとくを両腕で抱きかかえるようにして、帰宅する。

 五徳それを手にしたまま、四苦八苦しながら玄関扉をほんの少し開けると、隙間に足を引っ掛けて押し開けるようにして家に入る。

「ただいまぁー」
 言いながら、私は足をすり合わせて靴を脱いだ。お行儀が悪いけれど、両手が塞がっているのだから仕方ない。

 靴を脱いで上がりかまちに足を掛けたら、飼っているトラ猫がニャーンとすり寄ってきて、私は危うく彼につまずきそうになった。

「もぉ! 雲丹うにちゃん! 荷物持ってる時に足元に来たら危ないってばっ」

 その声に、台所から顔を覗かせた母が、私の手元を見るなり「それ、どうしたの?」と聞いてくる。

 私はお気に入りだったウサギのマスコットと、それを物々交換してきたむねを母に話した。でも、何故か『幽現屋ゆうげんや』と桜子さくらこさんのことは話せなかった。何だか分からないけれど、話してはいけないような気がしてしまって。

 母は、まさか娘が学校帰りに謎のお店に寄り道したなんて思いもしなかったのか、勝手に相手は学校のお友達の誰かだと思ったらしい。

「ひかりも物好きねぇ。ランドセルに付けられるマスコットの方が可愛かったでしょうに。でも一度OKを出した以上、気が変わったからって返して欲しいとか言っちゃダメよ?」

 相手の子が言ってきたならともかく……と付け足しながら、興味を失ったように台所へ消えた。
 そんな母の後ろを、雲丹うにがニャーニャーとご飯の催促さいそくをしながら追いかけて行く。

 私はそれを、ぼんやりと見送った。

 自室の勉強机の上に、持ち帰ったばかりの五徳ごとくを置くと、じっくりとその造作を眺める。

 母にはマスコット以下のレッテルを貼られてしまったけれど、なかなかどうして。見れば見るほど脚代わりになっている三羽のウサギは精巧で愛らしかった。

「今にも動き出しそう……」

 思わずため息をつきながら、そう言葉が漏れてしまうほどに。

 少し迷ってから、私はその五徳を部屋で育てているサボテンの鉢下はちしたの台座にすることにした。

 ゆっくりと鉢を載せてみると、まるでしつらえたようにジャストサイズで。
 植木鉢を、三羽のウサギたちが支えているように見えるその構図が、とても可愛らしくて気に入った。

「あ、でも……」

 帰り際に桜子さくらこさんに言われた『注意事項』をふと思い出した私は、それをほんの少し窓際から離す。

「とても可愛いデザインなんだけどね、月の光にだけは当てないようにしてね?」

「当てるとどうなるんですか?」

 聞いても、彼女は曖昧あいまいに微笑むだけで――。

「ごめんなさいね。私もそうしてはいけないと、これを持ち込んだ人から言われただけで、どうなるかまでは分からないの」

 そう言って頭を下げた。

 もし外に置いて野ざらしになんてしたら、びちゃうからそんなことを言われただけかもしれない。

 桜子さくらこさんの飄々ひょうひょうとした、どこかとらえどころのない雰囲気を思い出しながら、からかわれたのかも?とか思ってしまう。

 それでも折角手に入れたこの愛らしい五徳を守りたくて、私は月光が当たらないように配慮しようと心に決めた。

 上に載せたのが命ある植物なので、日光に当てないわけにはいかない。
 だから完全に窓から離すのは躊躇ためらわれて結局窓辺に置いてしまったけれど、夜になったら遮光しゃこうカーテンを引くし、問題ないはずだ。

 何度もチラチラと五徳ごとくの位置を確認しては、そんなことを思う。

 再度そっと五徳に触れると、私はもう少しだけそれを窓から離した。

 そこへ、ご飯を食べ終わったらしい雲丹うにがやってきて、足元にすり寄る。

雲丹うにちゃん、なぁに? 偵察?」

 雲丹うには、名前を呼んだ私をスルーして、窓辺に置いた五徳のにおいを嗅いでいる。
 この子は新しい物を家に持ち帰ると、必ずこんな風にチェックを欠かさない。

 いつものことなのでさして気にも止めず、私は宿題を片付けることにした。
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