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(20)事後のあれこれ

修行僧信武

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 信武しのぶは顔を伏せてこちらを見ようとしてくれない日和美ひなみをそっと抱き上げて風呂場へ向かいながら、「あれはそういうもんじゃねぇんだよ」と説明した。

 初心者の日和美が失禁と勘違いしてしまったのは仕方がないことなのかも知れないが、女性が感じた時なんかに起こる現象で、珍しいことではないのだと説明したら「それって……『誘いかける蜜口みつくち』に書いてあったやつですか?」と腕の中から見上げられた。

 先程の情事の余韻が、身体の方はもちろん精神の方にも作用しているんだろう。

 日和美がしっかり覚醒してしまったなら、こんな風に何の覆いもなく信武の腕に抱き上げられている現状を容認しなかったはずだから。

 何せ日和美だけじゃなく、彼女を抱き上げている信武自身も素っ裸なのだ。
 
 スライドドア全面が鏡面になっているウォークインクローゼット前を通過しながら、信武は日和美の視線がそちらへ向かわなくて良かったと内心ホッとする。

 日和美だって自分の裸は見慣れているだろうけれど、臀部でんぶや局所、下肢のあちこちに破瓜はかの痕跡を残した姿は、恐らく刺激が強過ぎるはずだ。

 信武はなるべく日和美が覚醒しきる前に、風呂場でそういうものを綺麗に洗い流してやりたいと思った。

 ついでにその後は自分だけサッと身体を清めてから、日和美にはゆっくり湯船に浸かるよう言い渡して、寝室のシーツなども気づかれずに綺麗なものへ整え直しておきたいとも考えていたりする。

 日和美の初体験が、彼女のなかで負の記憶と結び付いてしまいそうなことは事前に取っ払っておいてやりたい。

 お漏らし疑惑なんてその最たるものではないか。

「ああ。あん中で清佳さやかたくみの手技で潮を吹いたってあったろ……。あれと一緒。お前が吹いたのはアポクリン腺液ってやつだ。――尿とは違う」

 まさか自作に助けられるとは思っていなかった信武しのぶは、そんな説明をしながら日和美ひなみを浴室の床へそっと降ろしてやる。

「ひゃっ」
 思いのほか床が冷たかったのだろう。
 途端キュッと身体をすくませた日和美が、温もりを求めるみたいに信武にしがみ付いてきた。

(可愛すぎかっ)

 なんて思いが溢れすぎると息子が再度みなぎってしまいそうでヤバイので、信武はそんな日和美をそっと抱き寄せてやりながら、湯張りスイッチを押す。
 ついでにシャワーヘッドを壁の方へ向けてからシャワーコックをひねった。

 足元を湯になる前の冷たい水が流れるからだろう。日和美のしがみ付きが一層強くなって。

 柔らかな日和美の身体がキューッと肌に吸い付いてくるのを感じた信武は、内心(勘弁してくれ)と思ってしまった。

(また抱きたくなっちまうだろーがっ)

 初心者相手、立て続けにそんなことをするのは鬼畜の所業だと思う。

 だから理性を総動員して我慢しているというのに。

 日和美の無自覚爆弾ぶりに、タジタジの信武だ。


 湯気が立ち込め始めた浴室内で、日和美の下半身中心にシャワーを当てて優しく撫でさするように汚れを落としてやりながら、信武は心の中で仏説ぶっせつ阿弥陀経あみだきょうを唱え続けている。

 とはいえ経文きょうもんの全てを知っているわけではないので、ラストの辺りに出る「南無阿弥陀仏なまんだぶ」の繰り返しに過ぎなかったのだが。
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