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(18)すべての真実
『犬姫』裏事情
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「依頼があって二十代の女性向け作品を書こうってなった時にな、さすがに立神信武のままじゃ障りがあんだろってことになって……。急遽考えたペンネームが萌風もふだ」
――愛犬ルティシアが、モフモフしていて可愛かったから。
まさかその名で長いこと二足の草鞋を履き続けることになるだなんて思わなかったから、ペンネームの由来はそんな単純で、どうでもいいものだった。
日和美が記憶喪失だった自分に、フワフワな印象を理由に不破譜和という名を与えてくれた時、何だかしっくりきた気がしたのは恐らくそう言うことだったのだ。
日が経つにつれて、失っていたはずの不破だった頃の記憶も部分的に蘇りつつある信武は、バツが悪そうな顔をしてそんなことをゴニョゴニョと付け加えて。
それを聞かされた日和美も、信武の煮え切らない物言いから、語られていることが真実なのだと少しずつ理解が追い付いてきた。
「『犬姫』だけ別の出版社から本が出た絡みで実写の著者近影が欲しいって言われてな。さすがに俺の顔はメディアに出過ぎちまってたから苦肉の策で茉莉奈……、えっと……今日いた担当編集の女な? ――まぁ従姉なんだけど……あいつに代理を頼んだんだ」
「いとこ……」
どこか安心したように日和美がつぶやくのを見て、信武もホッとして。再び過去の出来事に思いを飛ばす。
〝立神信武〟は玄武書院の専属作家だが、彼の裏ペンネームが〝萌風もふ〟であることは業界にもオフレコだったから。
よその出版社からオファーがあったとき、断り切れなかった。
結果玄武でなら何とかなるアレコレがうまく回らなくて。
版元の要望通り、『何でも良いから萌風もふの顔になりそうなお前の写真をくれ』と頼んだ信武に、茉莉奈も、普段通りの格好では恥ずかしかったのか、わざわざ和装をして髪を下ろし、まるで日本人形のような大和撫子然としたコスプレ姿のポートレートを渡してきた。
『変装よ、変装!』
吐き捨てるみたいにそう言っていたが、日和美に見破られてしまったのだから果たしてうまくいっていたのかどうか。
「茉莉奈があんなのはもう二度とごめんだって断固拒否してきたからな。萌風もふも玄武書院の専属で他からのオファーは断るってことになって……ついでに玄武書院から出す本は萌風でデビューした時に『ゆらたう』で使った、モフモフイメージで俺が描いた超絶テキトーな落書きが共通の自画像ってことになったんだわ」
一冊だけ別レーベルから出版された『犬姫』以外の本に写真が載らなかったのはそう言うことだったのだと知った日和美は、何だか色々繋がって、ただただ驚くばかり。
ついでにあのほのぼのとした綿玉みたいなゆるキャラ風自画像が、信武の手によるものだと言うのにも二度びっくりだ。
「依頼があって二十代の女性向け作品を書こうってなった時にな、さすがに立神信武のままじゃ障りがあんだろってことになって……。急遽考えたペンネームが萌風もふだ」
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まさかその名で長いこと二足の草鞋を履き続けることになるだなんて思わなかったから、ペンネームの由来はそんな単純で、どうでもいいものだった。
日和美が記憶喪失だった自分に、フワフワな印象を理由に不破譜和という名を与えてくれた時、何だかしっくりきた気がしたのは恐らくそう言うことだったのだ。
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それを聞かされた日和美も、信武の煮え切らない物言いから、語られていることが真実なのだと少しずつ理解が追い付いてきた。
「『犬姫』だけ別の出版社から本が出た絡みで実写の著者近影が欲しいって言われてな。さすがに俺の顔はメディアに出過ぎちまってたから苦肉の策で茉莉奈……、えっと……今日いた担当編集の女な? ――まぁ従姉なんだけど……あいつに代理を頼んだんだ」
「いとこ……」
どこか安心したように日和美がつぶやくのを見て、信武もホッとして。再び過去の出来事に思いを飛ばす。
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よその出版社からオファーがあったとき、断り切れなかった。
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『変装よ、変装!』
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