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(17)サイン会ハプニング
表が気になって仕方がない
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(いや、正直そっちはどぉーでもいーんだけど)
などと内心では思いつつ、信武はふわりとした営業用スマイルを浮かべる。
「ええ……。――あっ、もちろん! 多賀谷さんのお仕事ぶりは信頼しているんですけど……やっぱり僕自身が作業をこなす場所ですし、少しどんな感じかな?と気になってしまいまして」
本当はそんなのバックヤードから出たいだけの口実に決まっている。
裏側にいないとなれば、きっと日和美は売り場にいるはずだから。
(今日あいつ、仕事が休みっちゅー話は聞いてねぇしな)
そこまで考えてから(いや、本当に休みじゃねぇって確認したわけじゃなかったな)と気が付いた信武だ。
とは言えさすがに今日、勤め先へ自分が来ることは日和美だって知っているはずだ。
信武へ何の連絡もなく、まさか不在なんてことはないはずだと信じたい。
「――でしたら少し様子を見にいらっしゃいますか? 私、ご案内しますよ」
多賀谷に問い掛けられた信武は、考え事をしていたせいで一瞬反応が遅れてしまった。
ばかりか――。
「立神先生?」
再度声を掛けられて「あン?」と思わず素が出てしまって、即座に多賀谷から見えない角度。
企業戦士モードの茉莉奈から、思いっきりわき腹に肘鉄を食らわされてしまう。
思わず声を上げそうになった信武をキッと睨みつけて黙らせると、
「申し訳ありません。実は立神先生、このところ締め切りに追われて寝不足が続いていましたものですから寝ぼけていらしたみたいです」
身内の体でこういう仕事関連の相手には基本呼び捨てで自分のことを呼ぶ茉莉奈が、あえて〝先生〟を付けたのはきっと、信武が売れっ子作家だと印象付けるために違いない。
信武の失態を、即座にフォローしてくる辺りさすが年の功!と思った信武だ。
まぁそんなことを言おうものなら後で八つ裂きにされかねないので黙っておいたのだが。
「会場の方は下手に立神が顔を出してしまうと、もうファンの方も並んでいらっしゃるでしょうし、よろしくない気がいたします。三つ葉書店様を信頼しておりますので。――ね? 先生?」
やんわりと店内に顔を出すのはNGだと釘を刺された信武は、心の中で小さく吐息を落としてうなずいた。
サイン会まではまだ一時間近くあるけれど、最終的な打ち合わせだってある。
信武は心の中で盛大な溜め息を落とすと、皆に促されるまま席に着いた。
信武は知らないけれど、いま彼が座った椅子は、日和美がよく休憩の時に弁当を食べるために使っているものだった。
***
サイン会自体は順調に進んで――。
だけど信武がいる位置から見える範囲には日和美らしき姿は見えなくて。
正直ずっと落ち着かなかった信武だ。
などと内心では思いつつ、信武はふわりとした営業用スマイルを浮かべる。
「ええ……。――あっ、もちろん! 多賀谷さんのお仕事ぶりは信頼しているんですけど……やっぱり僕自身が作業をこなす場所ですし、少しどんな感じかな?と気になってしまいまして」
本当はそんなのバックヤードから出たいだけの口実に決まっている。
裏側にいないとなれば、きっと日和美は売り場にいるはずだから。
(今日あいつ、仕事が休みっちゅー話は聞いてねぇしな)
そこまで考えてから(いや、本当に休みじゃねぇって確認したわけじゃなかったな)と気が付いた信武だ。
とは言えさすがに今日、勤め先へ自分が来ることは日和美だって知っているはずだ。
信武へ何の連絡もなく、まさか不在なんてことはないはずだと信じたい。
「――でしたら少し様子を見にいらっしゃいますか? 私、ご案内しますよ」
多賀谷に問い掛けられた信武は、考え事をしていたせいで一瞬反応が遅れてしまった。
ばかりか――。
「立神先生?」
再度声を掛けられて「あン?」と思わず素が出てしまって、即座に多賀谷から見えない角度。
企業戦士モードの茉莉奈から、思いっきりわき腹に肘鉄を食らわされてしまう。
思わず声を上げそうになった信武をキッと睨みつけて黙らせると、
「申し訳ありません。実は立神先生、このところ締め切りに追われて寝不足が続いていましたものですから寝ぼけていらしたみたいです」
身内の体でこういう仕事関連の相手には基本呼び捨てで自分のことを呼ぶ茉莉奈が、あえて〝先生〟を付けたのはきっと、信武が売れっ子作家だと印象付けるために違いない。
信武の失態を、即座にフォローしてくる辺りさすが年の功!と思った信武だ。
まぁそんなことを言おうものなら後で八つ裂きにされかねないので黙っておいたのだが。
「会場の方は下手に立神が顔を出してしまうと、もうファンの方も並んでいらっしゃるでしょうし、よろしくない気がいたします。三つ葉書店様を信頼しておりますので。――ね? 先生?」
やんわりと店内に顔を出すのはNGだと釘を刺された信武は、心の中で小さく吐息を落としてうなずいた。
サイン会まではまだ一時間近くあるけれど、最終的な打ち合わせだってある。
信武は心の中で盛大な溜め息を落とすと、皆に促されるまま席に着いた。
信武は知らないけれど、いま彼が座った椅子は、日和美がよく休憩の時に弁当を食べるために使っているものだった。
***
サイン会自体は順調に進んで――。
だけど信武がいる位置から見える範囲には日和美らしき姿は見えなくて。
正直ずっと落ち着かなかった信武だ。
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