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(16)やましいことなんてひとつもねぇから

黙って俺に愛されろ

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 バカだのなんだの交えながら、ツンと信武しのぶがそっぽを向いたのは、ヤキモチを妬いてくれていると自惚うぬぼれてもいいのだろうか?

 萌風もふもふ先生のアレコレよりもそっちの方が気になってしまった時点で、日和美は自分の中で相当信武への想いが強くなっているのを認めずにはいられない。

「どうせ出かけなきゃなんねーんならついでにお前の顔が見れたらって期待してさ。わざわざ日和美の職場近くであいつと落ち合ったっつーのに。それが裏目に出るとか本当マジでツイてなさ過ぎて腹立つんだけど!」

 ――見かけたんなら声掛けろよな!?と恨み節まじり。
 信武が日和美を睨みつけて忌々し気に頭をガシガシ掻くのでさえも、盛大な愛の告白に聞こえてしまう。

「あ、あの……。信武さんは……私のこと、本気で好き……なん……です、か?」

 それでしどろもどろ。
 そんなことを聞いてしまった日和美だ。

「――はぁ!? 今更それ聞くのかよ。俺、今まで散々お前に言ってきただろーが、バカ日和美ひなみめ! 酔狂や冗談で俺の女になれって言うほど俺はおりゃあ暇じゃねーんだよ! 分かったか!」

 グイッとあごを持ち上げられてじっと瞳を覗き込まれた日和美は、余りの顔の近さに思わずたじろいでしまう。

(あ……、これ、絶対キスされるやつ)

 そう思いながらも、言わずにはいられない。

「……じゃあなんで今、私の言葉に応えて『好きだ』って言ってくれないんですか? 意地悪ですか?」

 掴まれた手をグッと掴み返してじっと彼を見上げたら、信武しのぶが驚いたように瞳を見開いた。

 そうしてククッと喉を鳴らして笑い出す。

「なぁ、日和美よ。その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ。――で、結局お前はどうなんだ? 俺のこと、ちったぁ好きだと思えるようになったのか。俺も前からそれ、お前に聞いてると思うんだがな⁉︎」

 掴んだ手首を逆の手でグイッと掴み直されて、日和美はぶわりと頬を赤く染める。

「――す、好き……です……。ちょっとどころじゃなく沢山沢山好きです……!」

 照れ隠しに「多分」と付け足してしまった日和美をグイッと腕の中に抱き締めると、信武が日和美の耳元で低く甘くささやいた。

「――俺も日和美が好きだ。ちょっとどころじゃなく目一杯お前に惹かれてるから安心しろ。神様なんざ信じちゃいねぇーけど今だけそいつに誓ってやってもいい。やましいことなんてひとつもねぇから。黙って俺に愛されろ」
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