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(16)やましいことなんてひとつもねぇから

紙袋の中身

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 自分が信武しのぶの密会?現場を見たと認めたも同然のように動揺した途端、信武が不意に突き放すような態度を取るから。
 日和美ひなみは声にならない悲鳴を上げた。

 やはり私のことは遊びだったの? 聞かない方が良かったの?と絶望的な気持ちになってうつむいたと同時。

「これ」

 ぶっきら棒な声とともに目の前に紙袋を突き出されて、日和美は戸惑った。

 オロオロと眼前に立つ信武を見上げれば、「中。見てみろ」と無理矢理袋をひざの上に載せられる。

 その紙袋は、茶色のクラフト紙にレース柄が焦げ茶色でポンポンポンと大きく三か所にあしらわれていて――。
 真ん中のひらけたスペースに筆記体で〝So cute! 〟とつづられているお洒落なデザインだった。

 ここまでまじまじと見たわけではないけれど、どう見てもそれは過日萌風もふもふ先生が嬉しそうに信武へ手渡していた紙袋に違いなくて。
 必然的に彼女から素直に頭を撫でられていた信武の様子がセットで脳裏によみがえった日和美は、(何でこんなものを私が見なくちゃいけないの?)と思ってしまった。

 それで、紙袋をひざに載せて視線を落としたまま身じろぎ出来なくなって、信武を苛立たせてしまう。

「あー、もう! 何を勘違いしてんだか知らねぇけどっ! 俺はあいつから荷物、受け取って来ただけだから!」

 結局置いたばかりの紙袋を取り上げると、信武はそれを逆さまにして中身をバサバサと日和美の上にぶちまけてしまう。

 袋の大きさの割に、中には――。

(あれ? 昨日見た時は気がしたんだけどな? 私の見間違い?)

 一瞬そんなことを思った日和美ひなみだったけれど――。
 自分の上に降り注いだ〝もの〟に視線を落とした途端、そんななんて綺麗さっぱり吹っ飛んで、瞳を大きく見開いていた。

「えっ!? ちょっと待って、信武しのぶさんっ。これっ……」

「『ゆらたう』の販促用グッズと初回限定版の本だ」

 日和美は萌風もふもふ先生のデビュー作『ゆらたう』――『ユラユラたゆたう夏祭り~金魚すくいですくったふわふわドS王子様からの濡れ濡れな溺愛が止まりません!~』で彼女のファンになった。

 『ゆらたう』に出会ったのは、本屋の店頭で表紙絵に惹かれてたまたま手に取ったのがきっかけだったから。日和美はこの処女作に関してのみ、他作品とは違って色々と出遅れていた。

 そもそも日和美が持っている『ゆらたう』は重版がかかった第二版。当然初回限定特典などはついていなかったのだけれど。

 いま目の前にあるのは、日和美が手に入れたくても入れられなかった、幻の数量限定・初回限定版だった。
 予約分しか作られなかったらしいその初回限定版にのみ、書き下ろし小冊子が付いていたと知ってから、日和美はそれを読みたくて読みたくて仕方がなかった。
 だが、萌風もふもふファンはコアな読者が多いのか、古本市場にも出回ることがほとんどなくて。たまに出品されても値が張り過ぎて手が出せなかった日和美だ。
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